こんにちは！前回の記事では、製品ライフサイクルが短い、**「すぐ廃番になるような商品」**が、いかに在庫リスクを劇的に高めるかを見てきました。
今回は、この高リスクな在庫管理に立ち向かうための具体的な手法と、生産システムにおける在庫の役割について、重要なキーワードを交えて解説します。
短命製品のリスク構造：なぜ在庫が「死蔵」するのか？
製品ライフサイクルが短い流行品や季節商品では、需要のピークが過ぎ去る速度が速いため、在庫の評価損が一気に拡大します。
- 死蔵在庫（不良在庫）: 需要が途絶えた瞬間に、棚に眠っている過剰な在庫はすべて死蔵在庫となります。これらの在庫は資産価値が急落し、企業の財務状況を悪化させる直接的な要因となります。
- 見込み生産方式の課題: 短命な製品の多くは、市場の需要に迅速に対応するため見込み生産方式を採用します。しかし、この方式は需要予測に依存するため、予測ミスが即座に過剰在庫（死蔵在庫）のリスクに直結します。
🚨 在庫リスクと製造期間
ライフサイクルが短い製品でも、もし製造期間が長ければ、さらにリスクは高まります。製造期間が長いほど、生産の着手から販売までの間に市場環境が変化する可能性が高まるからです。このため、短命製品の管理では、製造期間の短縮と市場変化への迅速な対応が不可欠となります。
在庫の「持ち方」戦略：適正在庫と重点管理
リスクを抑えるためには、在庫をどこに、どれだけ持つかという適正在庫の設定が生命線となります。
📌 デカップリングポイントと仕掛品
サプライチェーン全体で、どこに在庫を配置するかを示す概念がデカップリングポイントです。
- デカップリングポイント: 顧客の注文を受けてから生産を開始する部分（受注生産）と、需要予測に基づいて事前に生産・在庫を持つ部分（見込み生産方式）を切り分ける点です。この点を顧客に近い（下流）に設定するほど、最終製品の即納体制を整えやすくなります。
- 仕掛品: このデカップリングポイントを最終製品ではなく、半製品や主要部品の段階に設定することで、仕掛品在庫を持つことになります。これにより、最終的な組み立てを顧客の注文後に行う「受注組立」が可能になり、最終製品の死蔵在庫リスクを抑えつつ、納期の短縮（即納）を図ることができます。
📌 ABC分析と重点管理
全ての在庫を均等に管理するのは非効率です。ABC分析は、在庫金額や出庫頻度に基づいて品目をA・B・Cのランクに分け、Aランクの重点管理にリソースを集中させる手法です。
- 特にライフサイクルの短い製品では、Aランク品（売れ行きが良い、または高価な部品）の適正在庫レベルを極めて厳密に設定し、死蔵在庫になるリスクを最小限に抑える必要があります。
在庫管理の具体的な手法と部品の扱い
🧩 部品点数比率と予備在庫
製品を構成する部品点数比率が高いほど、管理すべき在庫の種類は増えます。個々の部品管理も重要です。
- 予備在庫（安全在庫）: 予測のブレや供給側のトラブルに備えて持つ在庫です。短命製品の場合、この予備在庫が少しでも過剰になると死蔵在庫に転落するため、算出には細心の注意が必要です。
🗃️ 現場で役立つ管理手法
現場では、以下のような管理手法も在庫管理の効率化に役立ちます。
- ダブルビン法（二箱法）: 使用頻度の高い部品や消耗品に対し、二つの箱（ビン）を用意し、一方の箱が空になったら発注するシンプルな在庫補充の仕組みです。これにより、現場の作業を簡略化し、欠品を防ぎます。
製品ライフサイクルが短い製品の在庫管理は、もはや「管理」ではなく、市場と生産のサプライチェーン全体を見通した「戦略」です。デカップリングポイントを適切に設定し、適正在庫と目標原価を連動させることで、リスクの高い製品でも利益を最大化することが可能になります。
