機械製図は、設計者の意図を正確に、かつ効率的に伝えるための共通言語です。ここでは、図面を作成・理解するために不可欠な基本要素をまとめます。
製図や略図を描く基本と図面の3関係者
製図の基本は、JIS(日本工業規格)などの規格に従い、正確かつ簡潔に、そして明確に対象物の形状、寸法、加工指示を表現することです。
- 図面の3関係者:
- 設計者: 図面の意図を決定し、作成する人。
- 製作者(加工者): 図面を基に、実際に製品を製作・加工する人。
- 検査者: 完成した製品が図面の要求事項を満たしているか確認する人。
図面はこれら三者が共通認識を持つための重要なツールです。
投影法の種類と製図における4つの象限
投影法とは、立体を平面である図面に表現するための規則です。
- 投影法の種類: 主に正投影法(平行投影の一種)が用いられ、これは視線が投影面に垂直になるように投影する方法です。
- 製図における4つの象限: 正投影法では、2つの直交する投影面(正面と水平面)によって空間が4つの象限に分けられます。第一角法や第三角法は、この象限のどこに物体を置いて投影図を展開するかで決まります。
投影図と第三角法
- 第三角法(だいさんかくほう):
- 物体を透明な箱の中に入れ、各面から見た図を、その面のすぐ手前の投影面に描く方法です。
- 日本やアメリカなどで広く採用されており、JIS規格でも一般的に推奨されています。
- 特徴: 視点と投影図の配置が直感的で理解しやすい(上から見た図は上に、右から見た図は右に配置)。
第三角法の表現
第三角法に基づく図面の基本的な配置(三面図)は以下の通りです。
- 正面図を基準として描きます。
- 平面図(上から見た図)は正面図の真上に配置します。
- 右側面図(右から見た図)は正面図の右側に配置します。
図面には、採用した投影法を示す投影法記号(JISでは第三角法の記号)を記載します。
線の種類と太さ・用途
製図では、線の種類と太さを使い分け、対象物の様々な情報を表します。
| 線の種類と太さ | 用途による名称 | 線の用途 |
| 太い実線 | 外形線 | 対象物の見える部分の形状を表す |
| 細い実線 | 寸法線、寸法補助線、引出線、ハッチング | 寸法記入、断面の切り口など |
| 破線(細いまたは太い) | かくれ線 | 対象物の見えない部分の形状を表す |
| 細い一点鎖線 | 中心線、基準線、ピッチ線 | 図形の中心、中心軌跡、位置決定のよりどころを示す |
| 細い二点鎖線 | 想像線 | 隣接部分の参考、可動部分の移動限界などを表す |
| 太い一点鎖線 | 特殊指定線 | 特殊な加工を施す部分など、特定の要求範囲を示す |
表面性状
部品の表面の粗さ(滑らかさ)や加工方法に関する要求事項を図面に記入するための記号です。例えば、「研磨仕上げ」や「切削仕上げ」など、必要な表面の質を図示します。記号は、加工方法や表面粗さの等級($R_a$などで示される)を付記して使われます。
断面図
物体を仮想的に切断し、その**切り口(断面)**の形状と、切り口の奥にある形状を表した図です。
- 目的: 内部構造が複雑で見えにくい部品の形状を、かくれ線(破線)を使わずに明確に表現するために用います。
- 切断線: 断面図を描くために切断した位置を、対応する図面に太い一点鎖線(端部と方向が変わる部分が太い)で示します。
- ハッチング: 切り口の部分には、細い実線を等間隔に引いたハッチング(斜線)を施して断面であることを示します。
寸法の記入と寸法補助記号
寸法の記入
- 基本: 寸法は、できるだけ正面図など、対象物の形状を最もよく表している図に集中して記入します。
- ルール:
- **重複寸法(二重寸法)**は原則として避けます。
- 寸法線と寸法補助線は細い実線を用い、寸法値は寸法線の中央に書きます。
- 寸法線は、形状から遠い順に大きな寸法を配置します(外側の寸法線が一番長い)。
寸法補助記号
寸法値の前に付ける記号で、その寸法が何を示しているかを明確にします。
| 記号 | 意味 | 記入例 |
| $\phi$ | 直径(円形、円筒、球など) | $\phi 20$ |
| $R$ | 半径(円弧、丸みなど) | $R 5$ |
| $S\phi$ | 球の直径 | $S\phi 10$ |
| $SR$ | 球の半径 | $SR 8$ |
| $\square$ | 正方形 | $\square 30$ |
| $C$ | 面取り(45度の面取り) | $C 1$ |
はめ合い
軸と穴などの二つの部品を組み合わせたときのはまり具合(すきまやしめしろの程度)に関する要求事項です。公差を適切に指定することで、機能に応じたはめあいの関係を保証します。
- はめあいの種類:
- すきまばめ: 常にすきまができるはめ合い。部品がスムーズに動く必要のある箇所(例:回転軸のベアリング)。
- しまりばめ: 常にしめしろ(圧入による重なり)ができるはめ合い。一度組み付けると固定され、分解を想定しない箇所(例:圧入ブッシュ)。
- 中間ばめ: 公差によってすきままたはしめしろのどちらかが生じる可能性があるはめ合い。
- 指示方法: 基準寸法に続けて公差クラスの記号(アルファベットとIT基本公差等級の数値)を記入します。穴の公差は大文字(例:$H7$)、軸の公差は小文字(例:$h6$)で表します。
製図の基本原則と各要素のルールを理解することで、図面作成の効率と、情報伝達の正確性が向上します。

