油圧装置は、建設機械や産業機械など、大きな力を必要とする様々な分野で活躍しています。作動油の圧力を利用して動力を伝達・制御するこの技術は、一体どのような仕組みで成り立っているのでしょうか?
このブログでは、油圧の基本原理から主要な構成要素、そして実際の回路まで、幅広く解説していきます!
油圧の基本原理:パスカルの定理
油圧の根幹にあるのは、フランスの科学者ブレーズ・パスカルが発見した**パスカルの定理(パスカルの原理)**です。
✅ パスカルの定理とは?
密閉された容器内の静止している流体の一部に加えられた圧力は、流体の全ての部分に、大きさを変えずに均等に伝わるという原理です。
この原理を応用すると、受圧面積の異なる2つのピストンを持つ装置(例えば油圧ジャッキ)で、小さな力($F_1$)で大きな力($F_2$)を生み出す「倍力」が可能になります。
$$\text{圧力 } P = \frac{F_1}{A_1} = \frac{F_2}{A_2}$$
($A_1$:小さなピストンの面積、$A_2$:大きなピストンの面積)
$A_2$が$A_1$より大きければ、伝わる圧力$P$が同じでも、$F_2$は$F_1$より大きくなるという仕組みです。
油圧装置の構成と特徴
油圧装置の構成
油圧システムは、主に以下の3つの要素と、それらを繋ぐアクセサリで構成されています。
- 動力を発生させる部分(油圧ユニット)
- 油圧ポンプ:電動機などの原動機から得た動力を利用して、作動油に圧力をかけ、流体エネルギーに変換します。
- 油タンク:作動油を貯蔵し、冷却や異物沈殿の役割も持ちます。
- 動力を制御する部分
- 油圧バルブ(制御弁):作動油の圧力、流量、方向を調整・制御します。
- 仕事をする部分
- 油圧アクチュエータ:圧力がかかった作動油のエネルギーを、直線運動(シリンダ)や回転運動(モータ)などの機械的な動力に再変換し、実際の仕事を行います。
油圧装置の特徴
油圧は、他の動力伝達方式(電気、空気圧など)と比較して、以下のような特徴があります。
| 特徴 | 詳細 |
| 大きな力 | 小さな装置で極めて大きな力やトルクを生み出せる(高出力密度)。 |
| 無段階変速 | 制御弁により、速度を滑らかに、かつ簡単に変えられる。 |
| 自己潤滑 | 作動油が潤滑材の役割も果たすため、部品の寿命が長い。 |
| 過負荷防止 | リリーフ弁(圧力制御弁)により、異常な高圧を逃がして装置の破損を防げる。 |
主要な構成要素の解説
油圧ポンプの種類
油圧ポンプは、油を吐出する機構の違いにより、主に以下の3種類に分類されます。
| 種類 | 特徴 | 用途 |
| ギアポンプ | 2つの歯車で油を圧送。構造が簡単で安価。比較的低圧・大流量向き。 | 工作機械、産業車両など |
| ベーンポンプ | ローターとベーン(羽根)で油を圧送。騒音が少なく、長寿命。中圧向き。 | プレス機械、射出成形機など |
| ピストンポンプ | ピストンを往復運動させて油を圧送。高圧・高効率を実現。可変容量型が多い。 | 建設機械(パワーショベル)、鍛圧機械など |
油圧バルブ(制御弁)
油圧システムにおける「司令塔」の役割を果たします。大きく分けて、圧力、流量、方向を制御する3種類があります。
圧力制御弁
油の圧力を調整し、油圧回路や機器を保護します。
- リリーフ弁(安全弁):回路の圧力が設定値を超えないように余分な油をタンクに逃がす(安全機能)。
- 減圧弁:二次側の圧力を、一次側の圧力より低い一定の圧力に保つ。
流量制御弁
アクチュエータへの流量を調整し、動作速度を制御します。
- 絞り弁(スロットルバルブ):油の通路を絞って流量を制限し、速度を落とす。最も簡単な構造。
- 流量調整弁(フローコントロールバルブ):圧力や温度の変化に関わらず、設定した流量を一定に保つように自動調整する機能を持つものもある。
方向制御弁
作動油の流れる方向を切り替えることで、アクチュエータの動きを制御します。
- 切換弁(ディレクショナルバルブ):スプールの位置を切り替えることで、油の流路を開閉・変更し、シリンダの前進・後退やモータの正転・逆転を制御します。
油圧アクチュエータ
油圧エネルギーを機械的運動に変換する装置です。
| 種類 | 運動方向 | 用途例 |
| 油圧シリンダ | 直線運動(押す・引く) | プレス機の型締め、クレーンのアーム昇降 |
| 油圧モータ | 回転運動 | 建設機械の走行駆動、巻上げ機など |
| 揺動型アクチュエータ | 揺動運動(一定角度の回転) | ロボットのアーム、クランプ装置など |
油圧アクセサリ
油圧装置の機能や安全性を維持・向上させるための補機類です。
- 作動油:動力を伝える媒体、潤滑、冷却、防錆の役割を担う。
- 油圧ホース・配管:油圧ポンプと他の機器を繋ぎ、圧油を伝達する。
- フィルタ:作動油中の異物を除去し、機器の摩耗や故障を防ぐ。
- アキュムレータ(蓄圧器):圧油を一時的に蓄え、衝撃圧の吸収や非常時の動力源として利用する。
- 圧力計:回路内の圧力を測定・監視する。
油圧装置の基本回路
これらの構成要素を組み合わせることで、目的に応じた様々な回路が作られます。
圧力制御回路
油圧システムを安全に稼働させるために不可欠な回路です。
- リリーフ回路:油圧ポンプの吐出側にリリーフ弁を接続し、回路全体の最高圧力を設定し、機器を過圧から守ります。
- 減圧回路:特定の系統の圧力を主回路の圧力よりも低く一定に保ちたい場合に減圧弁を使用します。
速度制御回路
アクチュエータ(シリンダやモータ)の動作速度を調整するための回路です。主に流量制御弁(絞り弁や流量調整弁)を用いて実現します。
- メータイン回路:アクチュエータに流れ込む油の流量を制御することで、速度を調整します。
- メータアウト回路:アクチュエータから流れ出る油の流量を制御することで、速度を調整します。シリンダに負荷がかかる場合などに、スムーズな動きが得られやすい特徴があります。
油圧技術は、強力なパワーと精密な制御を両立させる、現代産業を支える重要な技術です。ぜひこのまとめで、油圧への理解を深めてくださいね!💪

