機械がスムーズに動き、長く活躍するためには、目に見えないところで重要な役割を果たしている存在があります。それが、潤滑材(じゅんかつざい)です。潤滑材は、機械の接触したりこすれ合ったりする部分に介在し、摩擦や摩耗を減らすことで機械の効率と寿命を劇的に向上させます。
今回は、機械の「守り神」とも言える潤滑材の働きと種類、そして油圧機器を支える作動油について詳しく見ていきましょう。
潤滑の働きと効果:機械を護る6つの盾
潤滑材の最も重要な役割は、金属同士の間に油の膜(油膜)を形成し、直接的な接触を防ぐことです。この働きによって、機械は以下の6つの恩恵を受けます。
| 働き | 効果 |
| 摩擦低減 | 摩擦力を下げ、動力の損失(エネルギーの無駄)を減少させます。 |
| 摩耗抑制 | 部品の直接接触を防ぎ、削れ(摩耗)を抑制し、寿命を延ばします。 |
| 冷却作用 | 摩擦熱や外部からの熱を吸収・放散し、部品の過熱を防ぎます。 |
| 防錆・防食作用 | 油膜が水分や酸素を遮断し、金属の錆(さび)や腐食を防ぎます。 |
| 密封作用 | ピストンとシリンダーの間などで気密性を保ちます(特にグリース)。 |
| 清浄作用 | 摩耗粉やスラッジ(汚泥)を洗い流し、分散させます(特に潤滑油)。 |
油膜潤滑の2つの状態
潤滑材が形成する油膜は、接触面にかかる圧力や速度によって厚さが変わり、以下の2種類に分けられます。
🔹 流体潤滑(完全流体潤滑)
- 油膜が厚く、接触面が完全に分離されている状態です。
- 摩擦が最も少なく、軸受の高速回転時などで理想的に実現します。
🔹 境界潤滑
- 油膜が薄くなり、部分的に接触面が触れ合っている状態です。
- 低速、高荷重、起動・停止時などに起こりやすく、油性向上剤などの添加剤の力が重要になります。
- この中間の状態を混合潤滑と呼びます。
潤滑材の主な種類
潤滑材は、その形態によって主に3つに分けられます。
潤滑油(オイル)
流動性のある液体で、冷却性や清浄作用に優れ、歯車や高速回転軸受、油圧装置などに広く使われます。
グリース
潤滑油である基油を増ちょう剤(ぞうちょうざい)で半固体状にしたものです。密封性が高く、頻繁な給油が難しい中低速の回転軸受などで長期間使用されます。
固体潤滑材
二硫化モリブデン、グラファイト(黒鉛)などが代表的で、高温・高荷重環境で特にその力を発揮します。
潤滑油の最も重要な性質:「粘度」
潤滑油を選ぶ上で、最も重要な性質が粘度です。
- 粘度:油の「流れにくさ(抵抗)」を示す指標です。粘度が高すぎると抵抗が大きくなり、低すぎると油膜が切れやすくなります。
- 粘度指数:温度変化に対する粘度の変化の度合いです。この指数が高いほど、温度が変化しても粘度が変わりにくい(高性能)ことを示します。
その他にも、引火点(燃えやすさ)や流動点(固まらない最低温度)などが重要な指標となります。
潤滑油 vs グリース
| 特徴 | 潤滑油 | グリース |
| 形態 | 液体 | 半固体 |
| 給油頻度 | 定期的な交換・補充が必要 | 長期間の使用が可能 |
| 冷却性 | 高い(循環させて熱を排出) | 低い |
| 密封性 | 低い(別途シールが必要) | 高い(増ちょう剤が流出を防ぐ) |
| 適用箇所 | 歯車、高速回転軸受、油圧装置など | 頻繁な給油が難しい、中低速回転の軸受など |
グリースは、硬さを示すちょう度、耐熱性の目安となる滴点、そして機械的安定性を示す混和安定性といった独自の性質で管理されます。
力を伝達する「作動油」の役割
「油」と聞くと潤滑を思い浮かべますが、油圧装置などで使われる作動油(さどうゆ)は、圧力媒体として力を伝達することが主目的です。
もちろん、作動油も同時に潤滑や防錆の作用を兼ね備えていますが、主要な役割は「力を伝えること」です。
作動油の分類と注意点
作動油には、一般的な鉱物油系のほか、燃えにくい性質を持つ難燃性作動油系(水-グリコール系、リン酸エステル系など)があります。
作動油は高温になると酸化劣化が進み、低温になると粘度が高くなりすぎ、性能が低下します。そのため、適切な粘度を保てるよう、使用温度範囲が厳密に規定されている点に注意が必要です。
潤滑材の劣化と点検の重要性
どんなに優れた潤滑材も、時間とともに劣化します。主な劣化原因と点検のポイントを知っておきましょう。
⚡ 潤滑材の劣化原因
- 酸化劣化:空気中の酸素と反応し、粘度の上昇やスラッジ(異物)を生成します。
- 熱分解:高温により油の分子構造が変化します。
- せん断劣化:機械的な力を受け、油の分子が切断され粘度が低下します(オイル)。
- 異物混入:水、金属摩耗粉、ゴミなどが混入し、潤滑性能を低下させます。
🔍 定期点検のポイント
潤滑材の油量・油面、温度、色や濁り(異物混入)などを定期的に確認することが不可欠です。
特に、油の劣化分析は、機械の異常や寿命を予測する上で非常に重要な予防保全となります。適切な給油(オイル)や給脂(グリース)の方法を守り、機械を長期間安定して稼働させましょう。

