私たちの身の回りにある機械や構造物は、小さな部品が組み合わさってできています。その**「結合」**を担い、どんな力や振動にも負けない強固な構造を作り出しているのが、締結部品です。
今回は、最も身近で重要な締結部品であるボルトとナットを中心に、その原理と機械の信頼性を高めるための重要な知識を解説します。
軸力を生み出す「ねじの原理」💡
ボルトとナットは、単に部品をくっつけているわけではありません。その根幹にあるのは、古くから使われている**「ねじの原理」**です。
ねじは「斜面の応用」
ねじは、実は**「斜面」を円筒の周りにぐるぐると巻き付けた螺旋(らせん)の形をしています。この原理のおかげで、小さな回転運動(回す力)を、巨大な直線運動(軸方向に引っ張る力、すなわち軸力)**へと効率よく変換できるのです。
ボルトやナットを締め付けることで、この強力な軸力が発生し、部品同士をまるで溶接したかのように密着させます。
基本を知る:おねじ・めねじ・右ねじ・左ねじ
| 種類 | 定義 | 備考 |
| おねじ(雄ねじ) | ボルトのように外側にねじ山があるもの。 | |
| めねじ(雌ねじ) | ナットのように内側にねじ山があるもの。 | |
| 右ねじ | **時計回り(右回り)**で締まる最も一般的なねじ。 | ほとんどの締結部品に採用されています。 |
| 左ねじ | **反時計回り(左回り)**で締まる特殊なねじ。 | 意図的な緩み止めや、回転機構に使われます。 |
知っておきたい「ねじのサイズ」と「種類」
ねじを選定する際、単に「太さ」だけでなく、複数の要素を考慮する必要があります。
ピッチとリードの関係
ねじ山の細かさを示すのが**ピッチ($P$)です。そして、ねじを1回転させたときに軸方向に進む距離がリード($L$)**です。
- 一条ねじ(一般的なねじ):$L = P$
- 多条ねじ(早く動かしたい場合):$L = n \times P$($n$は条数)
サイズと規格
| 分類 | 特徴 |
| ねじの呼び | M10(メートルねじ)のように、「M + 外径(mm)」でサイズを表します。日本国内では**メートル系(M)**が主流です。 |
| 並目ねじ | 最も標準的なピッチ。強度が高く、ねじ山が傷つきにくいです。 |
| 細目ねじ | 並目よりもピッチが細かいねじ。同じ太さでより大きな軸力を得やすく、緩みにくい特性があります。 |
細目ねじは高性能ですが、ねじ山を傷つけやすいため、取り扱いには注意が必要です。
なぜ緩む?ねじの「ゆるみ」とその対策 🚫
どんなに強く締めても、機械の運転中にねじは緩む可能性があります。ゆるみの原因を知り、適切な対策を講じることが、機械の安全性維持の鍵です。
ゆるみの二大原因
- 非回転ゆるみ(初期ゆるみ)
- なじみ:締め付け直後の接触面の微細な凹凸が摩耗し、軸力が低下すること。
- 陥没ゆるみ:締め付け圧力で、ボルト座面下の部品がへこむこと。
- *対策:適切な**予張力(初期軸力)*の確保や、平座金の使用が有効です。
- 回転ゆるみ(真のゆるみ)
- 主に振動や外部からの繰り返し荷重により、ねじ面間の摩擦力が失われ、ナットが戻り回転を起こす現象です。これが最も危険な軸力の急激な低下を招きます。
確実なゆるみ防止対策
「緩まない」構造を作り出すためには、単なる力任せの締め付けではなく、専門のゆるみ止め部品の活用が不可欠です。
| 対策の種類 | 代表例と効果 |
| ゆるみ止め部品 | ダブルナット、ナイロンリング入りナット、ハードロックナット(偏心クサビ構造など)など。ナットの摩擦や引っ張り合いにより、回転を物理的にロックします。 |
| 座金(ワッシャー) | ばね座金(弾性力で回転を抑制)、歯付き座金(座面に食い込み固定)、ノルトロックワッシャー(クサビ効果で強力にロック)。 |
| 化学的対策 | ねじロック剤(接着剤)。ねじ山に塗布し、固着させることで回転を阻止します。 |
座金(ワッシャー)の種類とその役割
座金は、締結の信頼性を高める重要な役割を担います。
- 平座金:座面の陥没を防ぎ、摩擦を均一にして安定した軸力を確保します。
- ばね座金:ボルトが緩む方向に回転しようとする力に対して、弾性力で抵抗します。
締結力の「管理」こそが信頼の証
ボルトの締結は「きつく締める」のではなく、「設計で定められた適切な力(軸力)で締める」ことが最も重要です。締め付けトルクが不十分だと緩みの原因に、強すぎるとボルトが破損する原因となります。
主な締め付け方式
| 方式 | 概要 | 備考 |
| トルク法 | 規定の**締め付けトルク(回転力)**で締める。 | 最も一般的ですが、摩擦係数の影響を受けやすいです。 |
| 軸力法 | 特殊な装置でボルトに発生する軸力を直接測定しながら締める。 | 非常に高精度な締結が要求される場合に用います。 |
複数ボルトの締め付け順序
複数のボルトで部品を締結する際は、必ず対角線または中央から外側へ、段階的に締め付けます。これにより、部品に均等な圧力がかかり、反りや隙間の発生を防ぎ、安定した締結力を確保できます。
締結部品は、まさに機械の**「生命線」**です。これらの部品が果たす役割と、緩みへの対策を正しく理解し、適切な管理を行うことが、機械の長期的な安全性と性能を保証するのです。

