事業

職場の安全は「義務」から「資産」へ!押さえておくべき安衛法の基本とリスク管理

企業の持続的な成長に不可欠な安全衛生管理。単なる「法令遵守(コンプライアンス)」と捉えられがちですが、実は優秀な人材の定着、生産性の向上、そして企業のブランドイメージ向上に直結する重要な経営戦略の一つです。

この記事では、安全衛生管理の土台となる**労働安全衛生法(安衛法)**の概要から、具体的な体制構築、現場での安全対策、健康管理までを体系的に解説します。

安全衛生管理の土台:労働安全衛生法(安衛法)の概要

日本の労働における安全と健康を確保するための基本となるのが労働安全衛生法(安衛法)です。この法律の目的は、職場での危険の防止健康の保持増進、そして快適な職場環境の形成を促進することにあります。

安衛法の全体像(第1章~第4章)

安衛法の冒頭では、この法律の目的や、事業者・労働者の責務が定められています。事業者は、労働者の危険・健康障害を防止するため、必要な措置を講じる義務があります。

実務に関わる規定(第5章~第12章)

法律の中核となるのが、具体的な規制や措置に関する規定です。

  • 第5章(技術上の指針等): 労働災害防止計画や安全衛生に関する管理体制の整備などが含まれます。
  • 第6章(機械等): 特定機械の製造・使用時の規制、安全装置の設置など、物的安全化の基本を定めています。
  • 第9章(健康の保持増進のための措置): 健康診断や作業環境測定など、労働衛生管理に関する重要な規定です。

法律の全容を把握することで、「なぜこの対策が必要なのか」という理由を理解できます。

安全衛生管理体制の構築と災害統計の活用

安全管理を機能させるためには、組織的な体制と現状把握が不可欠です。

管理体制に関する法規制

事業場の規模や業種に応じて、法令で定められた管理体制を構築しなければなりません。

設置が義務付けられる主な役職役割の概要
総括安全衛生管理者経営トップの立場で事業場全体の安全衛生業務を統括管理する。
安全管理者危険防止のための技術的事項を管理・監督する。
衛生管理者労働者の健康障害を防止するための技術的事項を管理・監督する。
産業医労働者の健康管理などについて専門的立場から指導・助言する。

これらの役職を中心に、安全委員会・衛生委員会を設置し、労使が一体となって安全衛生対策を協議・推進していきます。

災害統計等

過去の労働災害統計(死亡災害、休業4日以上の死傷災害など)は、自社のリスクを評価し、対策の優先順位を決める上で重要なデータです。度数率(延べ労働時間あたりの災害発生頻度)や強度率(延べ労働時間あたりの労働損失日数)といった指標を使って、自社の安全レベルを客観的に評価しましょう。

🛡️ 現場の安全は設備から!「物的安全化」の基本と法律遵守

こんにちは!職場の安全を確保するための活動には、作業者の教育やルールの徹底(人による安全管理)がありますが、最も効果的で根本的な対策が**「物的安全化」**です。

物的安全化とは、危険な機械設備や作業環境自体に安全対策を組み込み、**「人が間違えても事故が起こらない」**状態を目指すことです。今回は、この物的安全化を実現するための具体的なルールと管理について解説します。


1. 危険性の高い設備への法的規制

特に危険性の高い機械設備は、その製造・使用に厳しい規制が設けられています。

🚨 特定機械の厳格な手続き

労働安全衛生法で定められた特定機械(例:ボイラー、クレーン、プレス機械など)は、その構造上、重大な事故につながるリスクが極めて高いため、以下の手続きが義務付けられています。

  • 製造許可・検査: 特定機械新設したり、主要な構造を改造したりする際には、事前に労働局長の許可や、使用前の検査を受けなければなりません。
  • これらの手続きを怠ると、重大な事故につながるだけでなく、法令違反となります。

🚛 その他の特殊な機械

フォークリフトなどの車両系荷役運搬機械も、操作ミスによる事故が多く、その安全な運用には、運転資格の保有や日常点検が必須とされています。


2. 設備に組み込む安全装置と構造

機械の安全性を高めるためには、危険源そのものを排除する構造や装置の具備が不可欠です。

🛑 動力伝道部分と調速部分の安全化

機械設備の中でも、特に危険なのが動力を伝える部分です。

  • 動力伝道部分:ベルトやギアなど、機械の動力を伝える部分には、巻き込まれを防ぐための**ガード(覆い)**の設置が義務付けられています。
  • 調速部分:エンジンの回転数を制御する調速部分の異常は、機械の暴走につながるため、その機能の確実性が求められます。

また、動力駆動のプレス機械などには、非常時に機械の動作を停止させるインターロック装置などの安全装置が必ず設置されなければなりません。


3. 事故を未然に防ぐ予防保全の仕組み

新設時の検査をクリアした設備でも、使用中の劣化や不具合は避けられません。事故を未然に防ぐ予防保全の基本が、定期自主検査です。

🛠️ 定期自主検査の義務

  • 法令で定められた期間ごと(月次、年次など)に、機械や設備について、有資格者による定期自主検査を実施し、異常がないことを確認する必要があります。
  • これは、機械の故障による生産性の低下を防ぐだけでなく、劣化による特定機械などの重大事故を回避するための最重要プロセスです。

✅ リスクアセスメントに基づく対策の継続

定期自主検査の結果や、現場の状況に基づき、リスクアセスメント(潜在的な危険性や有害性を特定し、リスクの大きさを評価し、対策の優先順位を決める手法)を実施します。このリスクアセスメントに基づき、安全装置の設置や、動力伝道部分への追加ガード設置など、継続的な安全対策を講じることが、**「人が間違えても事故が起こらない」**職場を実現する鍵となります。


労働者の意識と行動を変える「人的安全化」の基本

設備面だけでなく、労働者一人ひとりの意識や行動に働きかけ、危険を回避できるようにする対策が「人的安全化」です。

労働者の就業にあたっての措置

  • 安全衛生教育: 雇い入れ時、作業内容変更時など、労働者が危険や有害要因を正しく認識し、安全な作業方法を習得するための教育は事業者の義務です。
  • 作業主任者の選任: 特定の危険な作業を行う際は、作業方法の決定や指揮を行う作業主任者を選任し、現場を統率させます。

5S活動の推進

「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」からなる5S活動は、単なる美化活動ではありません。

  • 整理・整頓:不要なものをなくし、必要なものを使いやすい場所に置くことで、つまずきや落下といった災害の芽を摘み取ります。
  • 清潔・しつけ:きれいな状態を維持し、ルールを守る習慣を身につけることで、安全意識の向上と作業の標準化につながります。

心と体の健康を守る「労働衛生管理」

労働衛生管理は、病気の予防だけでなく、労働者が心身ともに健康で働ける環境づくりを目指します。

労働衛生管理の基本

  • 作業環境管理: 騒音、粉じん、化学物質などの有害要因を測定し、適切に抑制・除去します(換気装置、局所排気装置など)。
  • 作業管理: 労働時間、作業強度、作業姿勢など、労働者に過度の負担がかからないよう管理します。
  • 健康管理: 定期的な健康診断の実施と、その結果に基づく適切な措置(医師による面接指導、就業上の措置など)を行います。特にストレスチェックは、メンタルヘルス対策として重要です。

職業性疾病の予防

特定の業務に起因する職業性疾病(騒音性難聴、腰痛、化学物質による中毒など)を予防するため、作業環境や作業方法を改善します。特に、長時間労働や過重労働による脳・心臓疾患の予防、心理的な負担によるメンタルヘルス不調の予防は、現代の重要な課題です。


まとめ:安全衛生は「投資」である

安全衛生管理は、法律で定められた項目を一つずつクリアしていく「守り」の活動であると同時に、企業のリスクを減らし、生産性を高めるための**「未来への投資」**です。

法規制を正しく理解し、物的・人的・衛生的側面からバランスの取れた対策を推進することで、すべての従業員が安心して働ける、真に強い職場を作り上げましょう。

タイトルとURLをコピーしました