原価管理は、単なる「安くする」活動ではなく、組織全体の利益確保と顧客満足度維持を目的とした総合的な経営管理活動として位置づけられます。ビジネスキャリア検定3級の共通知識として、この活動の真の意義と全体像を理解することが重要です。
1. 原価管理の定義と真の目的
原価管理とは、企業が狙った利益を確実に達成するために、原価を継続的にコントロールする活動です。
重要なのは、この活動はコストダウン(費用削減)活動のみを指すわけではないという点です。原価管理は、計画、把握、改善、統制という一連のステップを含む、企業活動全体にわたる「管理」そのものです。究極の目的は、顧客満足を保ちつつ、狙った利益を確実に出すことにあります。
2. コストだけを見てはいけない:総合管理としての原価管理
原価管理を考える上で、コスト(C)だけを最優先することは誤りです。原価管理は、品質 (Q)、納期 (D)、コスト (C) の三要素を同時に管理する総合管理の側面を持っています。
特に、顧客や市場が最初に要求するのは品質 (Q) と納期 (D) であり、これらが満たされて初めて価格(コスト)が議論できます。この順序を強調するため、QDCという考え方が用いられます。
コストを最小化することばかりに囚われ、QとDを疎かにすると、品質不良や納期遅延が発生し、返品、再作業、信用失墜といった隠れコストとして後から跳ね返り、かえって危険です。
3. 利益を「設計」する:許容原価の考え方
原価管理の根底にあるのは、利益を「結果として出たらラッキー」と考えるのではなく、製品の設計時点で利益を確実に出るように作り込むという発想です。
この発想に基づき、原価は「これ以上かけてはいけない」という許容枠として設定されます。許容原価は、以下のシンプルな式で定義されます。許容原価 (C)=予定売価 (P)−目標利益
設計、工程設計、購買、製造現場の全員が、この許容原価(C)という合計の上限を意識して、日々の業務における意思決定を行うことが求められます。
4. 原価決定の決定的な瞬間:設計段階の重要性
原価管理を成功させるカギは、製造現場でのコントロールだけでは遅いという認識にあります。
なぜなら、製品の原価の大半(教科書では7〜8割)は、製品の設計段階で決まってしまうからです。材料、加工方法、組み立て方式などの製品仕様がこの段階で固定されるため、設計の時点で「原価意識」を持つことが不可欠です。
原価を構成する要素は、以下の数式で捉えることができます。C (コスト)=V (物量)×T (時間)
これは、原価が**どれだけの量(材料の歩留まりなど)をどれだけの時間(段取りや加工時間など)**で作るかによって決まる、という本質を示しています。
5. 原価管理の二本柱:統制と低減
原価管理の活動は、性質の異なる以下の二つの柱から成り立っています。
- 原価統制(コスト・コントロール):
- 目的:あらかじめ決めた標準原価の範囲内に収めること。
- 活動:実績を標準原価と比較し、その差(原因)を潰していく活動。
- イメージ:「決められた通りにやる」。
- 原価低減(コスト・リダクション):
- 目的:設計や工程を根本的に見直し、新しい工夫や方法でさらにコストを下げること。
- 活動:VE(バリュー・エンジニアリング)などの革新的な活動。
- イメージ:「もっと良いやり方を探す」。
これらの活動は、**PDCAサイクル(PLAN、DO、CHECK、ACT)**で継続的に回され、企業の競争力を維持・向上させる源泉となります。

