クレーム――それは、企業にとって耳の痛い話かもしれません。しかし、これを単なる「後始末」や「アフターサービスの問題」として片付けてしまうと、企業の成長の機会を逃してしまうことになります。
品質管理と検査の文脈において、第29章「クレームと品質保証の関係」が私たちに突きつける最も重要な問いは、「クレームの真の原因はどこにあるのか?」ということです。本記事では、この問いに対するソースの考え方と、それが品質向上にどう繋がるのかを解説します。
注目すべきは「場所」ではなく「原因」
クレーム対応の現場で、私たちはつい「問題がどこで発生したか(場所)」に目を奪われがちです。しかし、ソースは、本来注目すべきは「どうして起きたか(原因)」であると強調しています。
- 「どこで発生したか」:多くの場合、「アフターサービスの部署」や「お客様の利用現場」といった、問題が表面化した場所を指します。
- 「どうして起きたか」:これは、単なる表面的な修復にとどまらず、将来のクレームを根絶するための品質向上に繋がる根本的な原因の究明を意味します。
クレームを「お客様との接点」の問題と切り離してしまうと、根本的な改善の機会を失ってしまいます。重要なのは、その不満が生まれてしまった構造的な原因を掘り下げることです。
原因が潜むのは「全工程」
クレームの原因は、特定の部署や工程に限定されるものではありません。ソースは、原因が潜む可能性のある場所として、以下の全ての工程を挙げています。
- 設計
- 製造
- 検査
多くの企業が抱きがちな「クレームはアフターサービスの担当領域だ」という誤解に対し、ソースは原因追及がバリューチェーン全体にわたる**品質保証(Quality Assurance, QA)**の問題であることを明確に示しています。
具体的な原因追及の例
例えば、「料理がぬるい」というクレームがあったとします。原因は一つではありません。
- 設計に問題がある:料理に適さない器の素材を選んでしまい、保温性が極端に低かった。
- 製造に問題がある:温め不足や、盛り付け時の工程管理に不備があった。
- 検査に問題がある:温度検査の基準が曖昧だったり、そもそも検査項目に漏れがあった。
このように、根本的な原因は、顧客の手元に届くまでの全ての段階に潜んでいる可能性があるのです。
品質管理・検査との決定的な関連性
第29章のこの考え方は、他の章で述べられている品質管理(QC)や検査の定義とも密接に関連しています。
品質管理(第26章)との関連性
第26章で定義される品質管理の目的は、「品質を一定水準に維持しつつ、向上させていくこと」です。
クレームの原因を設計、製造、検査の全工程にわたって探り、その根本原因を排除する活動は、まさに品質を向上させ続けるという品質管理の目的に合致しています。クレームは、現状の品質レベルと顧客の期待とのギャップを示す貴重なフィードバックであり、品質向上への最高のトリガーとなるのです。
検査(第28章)との関連性
第28章では、検査は製品の外観や性能といった「製品そのもの」にフォーカスすると説明されています。
しかし、「クレームの原因が検査の工程に潜んでいる」可能性があるという指摘は、検査の設計や実施方法自体が不十分であったために不良品を見逃した可能性を示唆しています。この場合、検査工程そのものも改善の対象となり、**「検査の品質」**もまた向上させていく必要があることを示唆しています。
まとめ
第29章「クレームと品質保証の関係」が訴えかけているのは、クレームを**「局所的な問題」としてではなく、「全社的な品質保証システムに対する警告」**として捉えることです。
「どこで発生したか」を問う代わりに「どうして起きたか」を追求し、その原因を設計、製造、検査の全ての工程から見つけ出して排除することこそ、クレームを真の品質向上と顧客満足への機会に変える鍵となります。
あなたの会社では、クレームを単なる後始末にしていませんか? それとも、品質向上の「宝」として活用していますか?

