まず、ソースはQCDを**品質(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)**という、生産管理と企業競争力の成功を測るための基本的な三要素として定義しています。これらは市場で製品が受け入れられるために必須の目標です。
真の決定時期は設計・開発段階
ソースが最も強調しているのは、これらQCDの要素がいつ決まるのかという点です。
- 製造段階では解決しない:ソースは「QCDは、製造段階でどうにかするものではありません」と明確に述べています。製造工程での努力は重要ですが、それはあくまで設計で決まった仕様を忠実に実現する段階に過ぎません。
- 上流での決定:QCDの要素の**「ほとんどは設計や開発の段階で決まります」**。例えば、製品の構造や使用する部品、製造プロセスなどが設計段階で決まることで、品質水準、必要な原価、生産リードタイムがほぼ固定されてしまうのです。
後からの調整は困難(手遅れのリスク)
一度設計や開発で仕様が固まってしまうと、製造段階に入ってから調整しようとしても、それは非常に難しいことが指摘されています。
- 調整の限界:製品も、家づくりや料理の例と同様に「後からでは調整できない要素が多い」のです。一度設計が複雑になった製品の原価を製造段階で下げようとしても、それは根本的な解決にならず、品質の低下や手戻りの原因になりかねません。
- コストの決定:特に**コスト(C)**については、原価企画の文脈で重要性が強調されています。「設計が終わってから原価を下げる」のでは遅く、市場で勝てる価格(ターゲットコスト)を実現するために、企画・設計の段階からコストの目標を設定し、それを織り込む必要があるとされています。
生産企画と生産技術
1. 製品企画(Product Planning)
製品企画は、どのような製品を開発し、市場に投入するかを決定する活動です。顧客ニーズや市場動向を分析し、製品の機能、性能、デザイン、構成部品の形状、そして価格帯などを具体的に計画します。
- 役割: 生産活動の最上流に位置し、何を作るかを決定します。
- 影響: この段階で決定された仕様が、後の生産技術や調達の要件を大きく左右します。
2. 生産技術(Production Engineering)
生産技術は、製品企画で決まった製品を、いかに効率的、高品質、低コストで製造するかを実現するための技術や手法を確立する活動です。具体的には、生産ラインの設計、最適な加工方法の選定、治工具の開発、自動化(FA)の推進などを行います。
- 役割: 製品を安定して、計画通りに製造するための方法論を確立します。
- 焦点: 製造プロセスの最適化と効率化です。
生産システムは「工場の中だけ」じゃない! 調達物流が鍵を握る現代のモノづくり
「生産システム」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?
おそらく、多くの人が**「工場の中で製品を作るライン」**をイメージするのではないでしょうか。しかし、現代のモノづくりの現場において、その認識は大きく変わっています。
私たちが学んだソースは、この「生産システム」の定義を拡張し、特に**「調達物流」**という、これまで見過ごされがちだった領域の重要性を強調しています。
この記事では、生産システムの真の範囲と、その中で「調達物流」がどのような役割を果たしているのかを解説します。
生産システムの範囲は「工場の外」へ拡大している
ソースが最も強く主張しているのは、生産システムがもはや**「工場の中の話だけ」ではない**という点です。
現代の生産システムは、製品がラインに投入される遥か以前、つまり原材料や部品をサプライヤーから調達する流れ全体を包含しています。
「作る前の準備」も生産の一部
この拡張された視点において、**「製造を開始する前の準備段階」**も明確に生産活動の一部として位置づけられています。
これは、製品の品質やコスト、納期(QCD)が、実際に工場で部品を組み立てる工程だけでなく、部品が工場に届くまでのプロセスに大きく左右されるためです。
サプライヤー側の工場での加工、そしてそれを工場へ運ぶ流れ、「外からの流れ」も含めて初めて生産システムとして成立するのです。
誤解されがちな「調達物流」の真の定義
この「外からの流れ」の中核をなすのが**「調達物流」**です。ソースは、この調達物流に対する一般的な誤解を正しています。
| 誤解されやすい考え方 | ソースが示す正しい定義 |
| 工場内での運搬のこと。 | サプライヤー(仕入れ先)からの運搬全体を指す。 |
| 生産システムの外にある。 | 生産システムを構成する重要な要素である。 |
「調達物流」とは、仕入れ先(サプライヤー)側から、工場の倉庫や生産ラインといった必要な場所へ資材を運搬するプロセス全体を指します。
この定義を分かりやすくするために、Amazonの例え話が紹介されています。
- 一般的な「物流」: Amazonの倉庫から顧客へ荷物が届くプロセス。
- 「調達物流」: 仕入れ先からAmazonの倉庫まで運ぶプロセス。
つまり、調達物流は、**「作る前の準備」**として、製造ラインがスムーズに稼働するための土台を築く極めて重要な活動なのです。
マテリアルハンドリングと調達物流
3. マテリアルハンドリング(Material Handling: マテハン)
マテリアルハンドリングは、生産・物流拠点内における**原材料、部品、仕掛品、最終製品などの「モノの移動」「保管」「取り扱い」**に関する活動全般を指します。具体的には、コンベア、AGV(無人搬送車)、フォークリフト、自動倉庫システムなどの機器や、それらを効率的に運用する仕組みが含まれます。
- 役割: 必要なモノを、必要な時に、必要な場所へ、必要なだけ、適切な状態で移動・保管することです。
- 目標: 生産性の向上、作業効率化、作業場の安全性確保、在庫スペースの最適化、およびコスト削減です。
4. 調達物流(Procurement Logistics)
調達物流は、サプライヤー(供給元)からバイヤー(自社工場など)へ原材料や部品を輸送し、受け入れるまでの活動を指します。具体的には、サプライヤー選定、発注、輸送手段の計画と実行、納期管理、および受け入れ検査などが含まれます。
- 役割: 生産に必要なインプット(原材料・部品)を確実に工場へ供給することです。
- 目標: **ジャストインタイム(JIT)**での納入、輸送コストの最適化、安定的な供給確保です。
まとめ:上流工程の管理こそ現代の生産管理
🔗 上流から下流への流れと連携
- 製品企画が出発点となり、「何を作るか」を決定します。
- この製品仕様(機能、構造、材料など)を受けて、生産技術が「どうやって作るか」の最適な方法(プロセス)を設計します。
- 生産技術が設計したプロセスに基づき、工場内でのモノの流れと保管の仕組みをマテリアルハンドリングが担います。効率的なマテハンは、生産技術が目指すスムーズな生産に不可欠です。
- また、生産技術が定めた製造に必要な原材料・部品を、調達物流が「いつまでに、どこから手配し、運ぶか」を実現します。調達物流の遅延は、生産活動全体を停止させてしまうため、マテハンと連携して工場の受け入れ体制と同期することが重要です。
ソースが私たちに教えてくれるのは、生産システムの成功は、単に工場内の効率化だけでは達成できないということです。
**原材料や部品が工場のラインに乗る前の段階(上流工程)**から、品質、コスト、納期に影響を与える重要な活動(調達・輸送)が既に始まっています。
現代の生産管理は、この**「調達物流」を含むサプライチェーンの上流部分**までを総合的に管理・最適化することで、初めてグローバルな競争力を維持できるのです。
あなたの会社の「生産システム」は、この上流の活動をどこまで含めて管理できていますか?

