ビジネスにおいて、製品やサービスの価格決定は常に重要なテーマです。
多くの方は、「原価に利益を上乗せすれば価格が決まる」と考えているかもしれません。しかし、激しい競争が繰り広げられる現代の市場においては、この常識はもはや通用しません。
今回ご紹介するのは、**「価格から利益を引いた残りで生産する」**という、従来の考え方を根本から覆すアプローチ、ターゲットコストの考え方です。
従来の価格決定:なぜうまくいかないのか
多くの企業が採用しがちなのは、以下のプロセスです。
- 原価を計算する: 材料費、人件費など、製品を作るのにかかった費用(原価)を積み上げます。
- 利益を上乗せする: その原価に、企業が確保したい利益を上乗せします。
- 販売価格を決定する: 「原価 + 利益 = 価格」で決定します。
この方法はシンプルですが、市場競争という最も重要な要素を無視しています。もし、あなたの製品の原価が他社より高ければ、上乗せした販売価格は市場のライバルより高くなり、**「誰も買いません」**という事態に陥ってしまいます。
正しいアプローチ:「価格から利益を引いた残りで生産する」
ソースが指摘するように、正しい価格決定のプロセスは**「実際は逆」**です。
企業がまず行うべきは、市場を起点とすることです。
ステップ1:市場価格の把握
まず、競合他社の製品や顧客の需要を徹底的に分析し、あなたの製品が**「市場でいくらで売れるか」**を把握します。これが、あなたの販売価格(売価)の基準となります。
ステップ2:ターゲット利益の設定
次に、企業として維持・成長していくために、その販売価格から**「確保したい利益」**を決定します。
ステップ3:許容原価(ターゲットコスト)の算出
そして、残った金額が、あなたの生産システム全体が達成しなければならないコストの上限となります。
計算式:市場価格 − 確保したい利益 = 許容原価(ターゲットコスト)
この**「価格から利益を引いた残りで生産する」**という原則こそが、ターゲットコストの考え方の核心です。つまり、作る側は、この許容原価の範囲内で製品を完成させる責任を負うことになります。
具体的な例:ランチ500円の街
これを具体的な例で考えてみましょう。
- 市場価格の制約:「ランチが500円の街」
- 目標利益:「利益を100円」確保したい
この場合、あなたが達成すべき原価の上限は、**「原価は400円まで」**と自動的に決定されます。
もし原価が450円であれば、目標利益は50円となり、収益目標を達成できません。ターゲットコストは、単なる原価計算ではなく、市場競争力を確保するための経営戦略なのです。
ターゲットコスト達成のための「原価企画」
この目標原価(ターゲットコスト)は、後から調整するものではありません。
ソースが強調するように、「設計が終わってから下げる、それでは遅すぎます」。
製品の原価のほとんどは、企画・設計の段階で決まってしまいます。製造段階でできるコスト削減はごくわずかです。
そのため、ターゲットコストを確実に達成するには、原価企画という活動が不可欠です。これは、製品の**「企画段階から始めるのが基本」**であり、設計に入る前にコストの目標を定め、その目標を達成できる製品構造を設計に織り込むというアプローチです。
まとめ
「価格から利益を引いた残りで生産する」という考え方は、企業努力によって達成すべき許容原価(ターゲットコスト)を明確にし、企画、設計、開発、製造といった生産活動のすべてが、このコスト制約下で動くことを求める、現代の生産管理における基本原則なのです。

