「品質管理」と聞くと、製造業の現場で製品の検査をしているイメージを抱く方もいるかもしれません。しかし、現代における品質管理は、単なる不良品のチェックを超え、組織全体の経営そのものを支える重要な概念へと進化しています。
ここで言う「品質経営」とは、企業が目標を達成し、安定した運営を継続していくための仕組みや体制のことです。この考え方は、特定の部署だけでなく、組織に属する全員が品質向上に貢献するという、QC(品質管理)的な思想に基づいています。
今回は、品質経営を構成する5つの主要な要素について、それぞれの役割と重要性を解説します。
方針管理と日常管理:組織の羅針盤と日々の活動
方針管理と日常管理は車の両輪のように、相互に連携しながら組織を前進させます。
方針管理:一つの方向に向かって進む
方針管理は、「新しい目標を達成するための変革的な活動」で、組織が戦略的な目標を達成するための羅針盤です。
企業が「今期は売上を20%アップする」といった目標を掲げたとき、それを達成するためにどのような施策を実行するか、誰が責任を持つかを明確にするのが方針管理です。
これは、経営層が定めた中長期の計画や方針を、各部門や個人が実行可能な具体的な目標へとブレークダウンしていくプロセス、つまり方針展開から始まります。方針は下位に展開されるにつれて、より具体的な内容が求められます。
そして、設定された目標は、その達成度を測定可能であることが基本です。これには、達成期日や評価指標を明確にする必要があります。目標設定の際は、関係部署と十分に調整し、実現可能性を検討することも重要です。
設定された方針は、組織全体に展開され、実行に移されます。そして、目標の達成度を定期的に評価し、PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを回して改善を重ねていきます。
日常管理:日々の業務を安定的に保つ
日常管理は、決まった業務を常に同じ品質で安定して行うための仕組みで、日々の業務を滞りなく、効率的に進めていくための活動です。これは、各部門が担う分掌業務を、定められた標準類に従って遂行する活動です。
日常管理では、業務の達成度を測るための特性を管理項目、その評価尺度を管理水準として明確にします。もし異常が発生したら、その原因究明と対策を実施し、再発防止に努めます。この一連の活動が、日々の品質維持に繋がります。
たとえば、製造ラインで製品を生産している場合、「製品のサイズは常に〇〇mmにする」という管理項目に対して、定期的にサイズを計測する「管理点」を設けます。これにより、問題が起きた際にすぐに対応できる体制が整います。
日常管理は、SDCA(Standardize-Do-Check-Act)サイクルを回し、業務の標準を維持・定着させることを目的としています。
標準化:最善のやり方を全員で共有する
品質を安定させ、継続的な改善を確実にするための土台となるのが標準化です。
標準化の目的は、組織全体で最も効率的かつ効果的な「最善のやり方」を定め、作業のばらつきをなくすこと。これにより、誰がやっても一定の品質が保たれます。
標準には、**「規格」「基準」「規定」**といった種類があり、それぞれ異なる役割を持っています。たとえば、「製品の品質規格」は製品そのものに関する基準であり、「作業手順書」は作業に関する規定です。
企業の活動をスムーズに進めるためには、従業員が守るべきルールが必要です。これを定めるのが社内標準化です。
社内ルールは、関係者の合意によって確立され、実行可能であり、かつ権威付けがなされていることが重要です。また、技術や状況の変化に合わせて、常に維持管理していくことが不可欠です。
この標準化は、ものや手順について定めた標準(技術的なものは規格)を、関係者の合意を得て承認されたものです。これにより、相互理解の促進、部品の互換性の確保、製品の多様性の調整など、多くのメリットが生まれます。
組織内部で統一されたルールを定める「社内標準化」だけでなく、日本産業規格(JIS)のような国レベルの標準や、国際標準化も品質経営の重要な要素です。
人材育成と教育:「品質は人から生まれる」
品質経営の主役は「人」です。そのため、従業員の能力開発は極めて重要な要素となります。
「品質管理は教育に始まり教育に終わる」、**「モノづくりは人づくり」**といった考え方は、この理念を象徴しています。
品質を向上させるための知識やスキルを従業員に浸透させるため、様々な教育方法が実践されます。
- OJT(On-the-Job Training): 実際の業務を通じてスキルを学ぶ
- OFF-JT(Off-the-Job Training): 研修やセミナーで体系的に学ぶ
- 階層別教育: 役職や役割に応じて必要な教育を行う
これらの教育を通じて、従業員一人ひとりが品質に対する意識を高め、自律的に改善活動に取り組めるようになります。
小集団活動:現場の知恵を活かす
小集団活動、いわゆるQCサークル活動は、現場レベルで継続的な改善を推進するための仕組みです。
現場の従業員が少人数のチームを組み、自主的に業務上の課題を発見し、解決策を検討します。これにより、現場の知恵や経験が組織全体の改善に活かされます。
この活動は、単に業務を改善するだけでなく、従業員の自主性や自己啓発を促し、組織全体のモチベーション向上にもつながります。管理者や推進事務局がこの活動をサポートすることで、より効果的に運用されます。
これに対し、目的別グループは、特定の目標達成のために必要なメンバーを集め、決められた期間内に経営資源を効率的に使い、目標達成を目指すものです。プロジェクトが完了したら解散するのが一般的です。
まとめ
方針管理、日常管理、標準化、人材育成、小集団活動。これらの要素は、それぞれが独立しているのではなく、有機的に連携し合っています。
全員が品質向上に参加し、人間性を尊重し、従業員の満足度を高めるという考え方のもと、これらの要素が一体となることで、組織は継続的な改善と経営目標の達成を実現できるのです。
品質経営を実践することは、変化の激しい現代ビジネスにおいて、組織が持続的に成長するための不可欠な基盤と言えるでしょう。

