製造業の競争力を高めるには、資材・在庫管理と生産システムの最適化が不可欠です。本記事では、その重要な要素を解説し、特に生産ラインの効率を決定づける工程編成の考え方をご紹介します。
資材・在庫管理:ムダをなくす土台づくり
1.部品展開と部品所要量計算
製品を製造する際、まず必要なのが「何を・どれだけ・いつまでに」準備するかを明確にすることです。
- 部品展開(BOM:Bill of Materials):製品の構成をツリー構造で展開し、どの部品がどれだけ使われているかを明確にします。これは、必要な資材を正確に把握する**「レシピ」**のようなものです。
- 部品所要量計算(MRP:Material Requirements Planning):生産計画に基づき、部品展開を用いて、いつ、どれだけの部品が必要になるかを逆算・計画します。これにより、必要なものを必要な時に手配できるようになり、過剰在庫や欠品を防ぎます。
2.在庫管理方式の基礎
在庫を適切に保つことは、資金の有効活用と生産の安定化に直結します。
- 定量発注方式:在庫が一定量(発注点)を下回ったら、常に決まった量を発注する方式です。在庫変動が少なく、比較的安定した需要の資材に適しています。
- 定期発注方式:発注するタイミング(期間)を決め、その都度、目標在庫量になるように発注量を調整する方式です。高価な資材や需要変動が大きい資材の管理に適しています。
生産システムとIE(インダストリアル・エンジニアリング)
1.IEの考え方
**IE(Industrial Engineering:生産工学)**とは、「人、モノ、設備」といった生産資源を最も効率よく組み合わせるための科学的な手法体系です。ムダを見つけ出し、生産性を向上させることが目的です。
- IEの3大要素:時間(タクトタイム、標準時間)、動作(作業方法の改善)、設備(レイアウト、機械の効率)に着目します。
2.IE手法と設計・改善
IEは、分析から改善まで多岐にわたる手法を提供します。
- 作業測定:ストップウォッチ法やPTS法(Predetermined Time Standards:既定時間標準法)などを用いて、作業の標準時間を設定します。
- 動作経済の原則:作業者の動作を分析し、**「両手の動作を同時に行う」「移動距離を短くする」**といった原則に基づき、ムダな動作を排除します。
工程編成:生産ラインの心臓部
1.工程編成の種類と特徴
製品の作り方に応じて、生産ラインの形も変わります。
- ライン生産方式(フローショップ型):単一製品や類似品を連続して大量生産するのに適しています。製品は工程順に流れます。例:自動車の組み立てライン。
- セル生産方式:作業者が複数工程を担当し、U字型などの配置で少人数・多品種生産に対応します。多能工の育成にもつながります。
- 機能別(ジョブショップ型):同じ機能を持つ機械や作業者をひとまとめにした配置です。多品種少量生産やカスタム品の製造に適しています。
2.ラインバランシングの基礎
ライン生産方式の効率を左右するのがラインバランシングです。
ラインバランシングとは、生産ラインの各作業ステーションに割り付ける作業量を均等化する方法です。(JIS Z 8141:3403)
- 目的:特定の工程に作業が集中するボトルネック(制約工程)や、作業量の少ない工程での手待ちをなくし、ライン全体の編成効率を高めることです。
- 指標と計算:
- タクトタイム(基準生産時間):市場の要求に応じた製品を1つ完成させるために許容される時間。
- サイクルタイム:実際にラインが製品を1つ完成させるのにかかる時間。ラインバランシングでは、サイクルタイムをタクトタイム以下に抑えることを目指します。
- 編成効率:ラインが持っている能力に対し、実際にどれだけ効率良く使えているかを示す指標です。 編成効率(%)=(最も作業時間が長い工程の時間)×(工程数)全工程の合計作業時間×100
- バランスロス:編成効率が100%からどれだけ離れているかを示す指標で、ムダの大きさを表します。
- 手順:
- 要素作業への分割と時間測定:作業を細かく分け、それぞれの時間を測定します。
- 先行順位の設定:各作業の実施順序の制約(この作業の前に必ず別の作業を終える必要がある)を明確にします。
- ピッチダイアグラムの作成:各工程の作業時間をグラフ化し、山積み・山崩しによって作業の偏り(ボトルネック)を視覚化します。
- 改善:作業の組み替え、設備の導入、作業方法の改善などにより、各工程の作業時間を均等化(山崩し)し、編成効率を向上させます。
これらの基礎知識を理解し、日々改善を続けることが、スマートファクトリーの実現と製造業の持続的な成長に不可欠です。まずはあなたの職場のムダを見つけることから始めてみませんか?


