地面が徐々に沈み込み、建物やインフラに深刻な被害をもたらす「地盤沈下」。かつての日本では、高度経済成長期に伴う地下水の過剰な汲み上げにより、各地で深刻な問題となりました。
こうした事態を食い止めるために制定されたのが、地下水採取を制限する「地盤沈下関連法」です。今回は、その中心となる2つの法律と、具体的な規制の内容について分かりやすく解説します。
地盤沈下を防ぐ「2つの柱」
地盤沈下対策の要となるのは、「工業用水法」と「ビル用水法」の2つです。
工業用水法(1956年制定)
もともとは工業用水を安定して供給することを目的としていましたが、1962年の改正で「地盤沈下の防止」が明確な目的として追加されました。
- 対象: 工業用に使用される、動力を用いた井戸。
- 背景: 工場による大量の地下水汲み上げを抑え、地盤を守るためのブレーキ役となっています。
ビル用水法(1962年制定)
正式名称を「建築物用地下水の採取の規制に関する法律」といいます。
- 対象: ビルの冷暖房、水洗トイレ、洗車設備などに使われる揚水設備。
- 基準: 揚水機の吐出口(水の出口)の断面積の合計が150cm²を超えるような、比較的大規模な設備が対象です。
どこで、どんな規制が行われるの?
これらの法律は、日本全国どこでも同じように適用されるわけではありません。
「指定地域」での許可制
地盤沈下の恐れがあるとして政令で指定された「指定地域」において、厳しいルールが適用されます。
- 許可制: 指定地域内で対象となる井戸を設置する場合、都道府県知事などの許可が必要です。勝手に掘ることはできません。
- 技術的な構造基準: 許可を得るためには、「ストレイナー(地下水を取り入れる隙間)」を設ける深さや、ポンプの出口の太さなど、細かい技術基準をクリアしなければなりません。
規制の「対象外」となるケース
すべての地下水利用が制限されるわけではありません。以下のケースは、地盤への影響が少ない、あるいは別のルールがあるため、原則としてこれら2法の対象外です。
- 小規模な設備: 手押しポンプや、吐出口の断面積が6cm²以下の小さな設備。
- 上水道・農業用: 地域の生活や食を支えるための水は、この2法ではなく、主に自治体の条例などで個別に管理されます。
- 鉱業: 鉱物採取に伴う地盤沈下については「鉱業法」という別の法律が適用されるため、公害としての規制からは除外されています。
自治体による「条例」の役割
実は、国が法律を整えるよりも早くから、地盤沈下に悩む自治体は独自に動いていました。例えば大阪市では1959年に「地盤沈下防止条例」を制定しています。
現在も多くの自治体が、国の法律よりも厳しい基準や、地域の実情に合わせたきめ細かな「地盤沈下防止条例」や要綱を定めており、二段構えで私たちの暮らしを守っています。
まとめ
地盤沈下は一度起こってしまうと、元の高さに戻ることはほぼありません。
- 工業用は「工業用水法」
- ビル用は「ビル用水法」
- それ以外や細かいルールは「自治体の条例」
このように、用途や規模に応じて役割分担をしながら、私たちの足元の安全は守られているのです。建設や設備担当の方は、設置場所が「指定地域」に含まれていないか、まずは自治体の窓口で確認することをお勧めします。

