- 財務会計総論
- ⼀般原則
- 損益会計
- 資産会計
- 負債会計
- 資本会計
- 財務諸表
- 財務会計総論Ⅱ
- 概念フレームワーク
- 貸借対照表の純資産の部の表⽰に関する会計基準
- ⾃⼰株式及び準備⾦の額の減少等に関する会計基準
- 株主資本等変動計算書に関する会計基準
- ストック・オプション等に関する会計基準
- リース取引に関する会計基準
- 研究開発費等に係る会計基準
- ⾦融商品に関する会計基準
- 固定資産の減損に係る会計基準
- 棚卸資産の評価に関する会計基準
- 退職給付に関する会計基準
- 資産除去債務に関する会計基準
- ⼯事契約に関する会計基準
- 会計⽅針の開⽰、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準
- 税効果会計に係る会計基準
- 外貨建取引等会計処理基準
- 連結財務諸表に関する会計基準
- 包括利益の表⽰に関する会計基準
- 企業結合に関する会計基準
- 事業分離等に関する会計基準
- 連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準
- 賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準
- 役員賞与に関する会計基準
- 四半期財務諸表に関する会計基準
- 収益認識に関する会計基準
財務会計総論
会計公準
◆ 企業実体の公準
企業実体の公準とは、企業と出資者を別個のものと捉え、企業自体を会計単位とする前提をいう。企業実体の公準は会計単位の公準ともいう。
◆ 継続企業の公準
継続企業の公準とは、企業は永遠に継続すると仮定し、企業の全存続期間を人為的に一定の会計期間に区切って、期間計算を行う前提をいう。継続企業の公準は会計期間の公準ともいう。
◆ 貨幣的評価の公準
貨幣的評価の公準とは、会計行為である記録・測定・報告のすべてを、貨幣額によって行う前提をいう。貨幣的評価の公準は貨幣的測定の公準ともいう。
会計主体論
◆ 企業主体理論の意義
企業主体理論とは、企業は出資者とは別個の独立した存在であると考えて、企業自体の立場から会計上の判断を行うべきであるとする考え方である。
GAAP
◆ GAAPとは
一般に公正妥当と認められる企業会計の基準とは、会計実務の中に慣習として発達したもののうち、一般に公正妥当と認められた会計慣行を、一定の権威ある機関が整理して設定したものをいう。
貸借対照表観
◆ 静態論
1.意義
静態論とは、企業の債務弁済能力の算定表示を重視し、会計の目的を財産計算に求める会計思考をいう。
◆ 動態論
1.意義
動態論とは、企業の収益力の算定表示を重視し、会計の目的を損益計算に求める会計思考をいう。
◆ 静的貸借対照表
静的貸借対照表においては、換金価値を持つものだけが資産とされ、確定債務だけが負債とされる。
◆ 動的貸借対照表
動的貸借対照表においては、資産には換金価値を持つもののほか計算擬制的資産が含まれ、負債には確定債務のほか計算擬制的負債が含まれる。
利益の計算方法
◆ 財産法
1.意義
財産法とは、期末純資産額から期首純資産額を差し引いて期間損益を算出する方法である。
3.長所
財産法は純資産そのものの増減に着目するため、財産的な裏付けのある利益が算出される。
◆ 損益法
1.意義
損益法とは、期間収益から期間費用を差し引いて期間損益を算出する方法である。
3.長所
損益法は純資産の増加原因となる収益と純資産の減少原因となる費用によって損益計算を行うため、利益の発生原因を明らかにすることができる。
⼀般原則
真実性の原則
◆ 真実性の原則における真実
真実性の原則が要請する真実は、相対的真実である。相対的真実とは、企業会計原則に準拠すること、すなわち「適正性」を意味する。
資本取引・損益取引区別の原則
◆ 一般原則三 本文
資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。
◆ 利害調整の観点からの混同禁止の必要性
資本剰余金は維持拘束性を特質とし、利益剰余金は分配可能性を特質とする。したがって、両者を混同すると、維持すべき資本が侵食される危険性があるため、両者を混同してはならない。
◆ 情報提供の観点からの混同禁止の必要性
資本剰余金は資本取引を源泉とし、利益剰余金は損益取引を源泉とする。資本を源泉によって区別することで投資家の意思決定に役立つ情報となるため、両者を混同してはならない。
継続性の原則
◆ 一般原則五 本文
企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない。
◆ 継続性の原則が必要とされる理由(財務諸表の期間比較性の確保の観点)
会計方針を毎期継続して適用しないときは、同一の会計事実について異なる利益額が算出されることになり、財務諸表の期間比較が困難になるからである。
◆ 継続性の原則が必要とされる理由(恣意的な利益操作の排除の観点)
企業が会計方針を自由に変更できるとした場合、経営者による恣意的な利益操作が可能となるからである。
保守主義の原則
◆ 保守的な処理
保守的な処理とは、慎重な判断に基づいた処理、期間利益を控えめに計上するような処理をいう。
損益会計
損益会計総論
◆ 発生主義の意義
発生主義とは、収益及び費用を経済価値の増減事実の発生に基づいて認識する考え方をいう。
◆ 発生主義会計の長所
経済価値の増減事実の発生に基づくため、努力(費用)と成果(収益)が適切に対応する。
◆ 発生主義会計の短所
1. 収益の計上が客観性と確実性に欠ける。
2. 貨幣性資産の裏付けのない利益が算出される。
実現主義(意義・要件)
◆ 実現主義の意義
実現主義とは、収益を、経済価値の実現という事実に基づいて認識する考え方をいう。
◆ 実現の要件
1. 財貨又は用役を相手方に引渡すこと。
2. 対価として貨幣性資産を受領すること。
5.実現主義(根拠・理由)
◆ 実現主義が収益認識の原則とされる理由2つ
1. 収益に客観性と確実性がある。
2. 利益に貨幣性資産の裏付けがある。
6.費用収益対応の原則
◆ 費用収益対応の原則の意義
費用収益対応の原則とは、期間収益と期間費用は因果関係によって対応づけるべきであるとする原則をいう。
◆ 費用収益対応の原則の目的
費用収益対応の原則の目的は、適正な期間損益計算を行うことにある。
◆ 費用収益対応の原則の必要性
実現収益の計上と発生費用の計上には、時間的ずれが生じる場合があることから、両者の計上時期を正確に対応させる必要がある。
収益・費用の測定
◆ 収支額基準の意義
収支額基準とは、収益は収入額に基づいて、費用は支出額に基づいてそれぞれの額を決定することをいう。
◆ 収支額の意味
収支額基準における「収支額」には、過去、現在、将来の収支額が含まれている。
損益会計の体系
◆ 企業会計原則における損益計算の体系
企業会計原則においては、収益を実現主義により認識し、費用を発生主義により認識し、その後、費用収益対応の原則により期間費用を把握することで、期間利益を計算するという損益会計の体系となっている。
資産会計
資産評価(時価主義)
◆ 時価主義の論拠
貸借対照表には期末時点の企業の経済的実態を反映させるべきである。したがって時価で評価すべきである。時価主義は、投資家に対する情報提供の面で、期末の貸借対照表が資産価値の最新情報(期末の経済的実態)を反映させたものとなるため、取得原価主義に比べて、より有用な情報を提供できるものと考えられる。
◆ 時価主義の長所
時価主義によれば、操業損益と保有損益が区別できるため、投資家に有用な情報を提供できる。操業損益と保有損益が区別できるのは、時価主義によることで収益と費用の同一価格水準での対応が可能となるからである。これは、利益の備えるべき特質としての業績指標性の観点からの長所である。
資産評価(割引現価主義)
◆ 割引現価主義の論拠
資産の本質を用役潜在力ないし経済的便益とすれば、資産の本質と資産評価とが、いずれも将来のキャッシュ・フローと関連づけられることから、整合的である。したがって割引現在価値で評価すべきである。
資産評価(取得原価主義)
◆ 取得原価主義の論拠1
取得原価主義の論拠を分配可能性の観点から説明すれば次のとおりである。
取得原価主義によれば、投下資本(名目資本)の回収余剰としての分配可能利益の算定に資する。また、取得原価主義によれば、時価上昇による評価益という未実現利益の計上を排除できるため、貨幣的裏付けのある分配可能利益の算定に資する。
◆ 取得原価主義の問題点(貸借対照表の観点)
取得原価主義によると、価格変動時には資産の貸借対照表価額が時価と乖離し、貸借対照表に企業の経済的実態が反映されないという問題点がある。
費用配分の原則
◆ 費用配分の原則の意義
費用配分の原則とは、費用性資産の取得原価を、当期の費用と次期以降の費用とに配分することを要請する原則をいう。
◆ 費用配分の意義
費用配分とは、費用性資産の取得原価(支出額)を、費消事実の発生に基づいて費消分を当期の費用、未費消分を次期以降の費用として配分することをいう。
◆ 費用性資産の意義
費用性資産とは、将来費用となる資産をいう。
◆ 費用配分の原則の必要性
費用性資産においては、支出時点と費用化時点に期間的なずれが生じることから、費用配分の原則による調整が必要とされる。
◆ 費用配分の原則の目的
費用配分の原則の目的は、適正な期間損益計算を行うことにある。費用性資産は、取得(支出)と費消(費用の発生)とに期間的ずれが生じる。したがって、費消事実の発生のタイミングに合わせて費用性資産の取得原価を費用に配分することで、適正な期間損益計算を達成しようとするのが費用配分の原則の目的である。
棚卸資産(意義、取得原価)
◆ 棚卸資産の取得原価に取得に係る付随費用を含める理由
付随費用を取得原価に含めることでいったん資産計上し、その後、費用配分の対象とされて、収益との対応を図ることで適正な期間損益計算を行うことができるからである。
棚卸資産(費用配分(払出数量))
◆ 原則とされる払出数量の計算方法
継続記録法とは、棚卸資産の種類ごとに受入、払出のつど数量を継続的に記録し、当該帳簿記録から当期払出数量を計算する方法である。
◆ 棚卸計算法の短所
払出数量を実地棚卸数量に基づき差額で計算するため、費消量に棚卸減耗が混入するおそれがあり、正確な払出数量が把握できない。在庫数量を必要に応じて把握することができないため、在庫管理には適していない。
棚卸資産(費用配分(払出単価))
◆ 個別法の適用
個別法はどのような棚卸資産に適用すべきかと言えば、個別性の強いものに限定して適用すべきである。
◆ 個別法の長所
個別法は、棚卸資産の実際の流れとその原価の流れが完全に一致する方法である。したがって、個別法によれば、事実に合致した最も正確な費用配分が可能となる。
◆ 個別法の問題点
個別法を大量仕入品の払出に適用すると、払出単価を恣意的に選択することができるため、利益操作が可能となるという問題点がある。
◆ 価格変動時における後入先出法の特徴(B/S面)
後入先出法によると、期末棚卸資産の価額は過去の古い価額となる。したがって、価格変動時には、期末棚卸資産の価額が期末の時価と大幅に乖離するおそれがある。
◆ 価格変動時における後入先出法の特徴(P/L面)
後入先出法によると、売上原価の価額は後で仕入れた新しい価額となる。したがって、価格変動時には、売上高と売上原価とが同一価格水準で対応する。その結果、利益額から保有損益を排除できる。
棚卸資産(評価基準:原価法)
◆ 原価法の意義
原価法とは、期末棚卸資産の貸借対照表価額を取得原価に基づいて算定する方法をいう。原価法は、原価基準とも呼ばれる。
棚卸資産(評価基準:低価法)
◆ 低価法の意義
低価法とは、期末棚卸資産の貸借対照表価額を原価と時価のいずれか低い方で評価する方法をいう。
◆ 企業会計原則が低価法を容認していた理由2つ
1 保守主義の観点から広く支持されている。
2 回収可能額を示すことが有用な情報提供となる。
◆ 低価法の問題点
低価法によると、適正な期間損益計算を歪めることが問題とされる。すなわち、適正な期間損益計算を行うためには、当期の実現収益に、棚卸資産の原価を対応させることが必要であると考えられる。しかし、時価下落時に低価法を適用して時価による評価を行うならば、一期間の損益が他の期間に帰属すべき損益によって歪められることが問題となる。
有形固定資産(分類、取得原価の決定(購入、現物出資))
◆ 購入による取得
固定資産を購入によって取得した場合には、購入代金に付随費用を加えて取得原価とする。
ただし、正当な理由がある場合には、付随費用の一部又は全部を加算しない額をもって取得原価とすることができる。
有形固定資産(取得原価の決定(自家建設))
◆ 自家建設に係る借入資本の利子
建設に要する借入資本の利子で稼働前の期間に属するものは、これを取得原価に算入することができる。
◆ 原価算入説に対する批判
資産の取得原価は取得時の経済的便益を表すものであり、資産取得のための資金が自己資金か借入資金かによって資産の取得原価が異なるべきではない。すなわち、利子は経済的便益を高める原因とはならない。したがって、利子の資産性は否定される。
有形固定資産(取得原価の決定(交換))
◆ 固定資産と固定資産の交換における取得原価
土地と土地の交換のような同種資産の交換は、投資の継続性が認められるため、譲渡資産の簿価を取得資産の取得原価とすべきである。
◆ 固定資産と固定資産の交換における交換損益
土地と土地の交換のような同種資産の交換は、投資の継続性が認められ、投資の清算は行われていないと考えられることから、交換による損益は認識されない。
◆ 有価証券と固定資産の交換における取得原価
有価証券と土地の交換のような異種資産の交換は、いったん投資を清算し改めて時価で投資を行ったものと考えられるため、譲渡資産の時価を取得資産の取得原価とすべきである。
◆ 有価証券と固定資産の交換における交換損益
有価証券と土地の交換のような異種資産の交換は、いったん投資を清算し改めて時価で投資を行ったものと考えられることから、投資の清算に伴い交換による損益が認識される。
有形固定資産(取得原価の決定(贈与))
◆ 固定資産を贈与によって取得した場合の取得原価
固定資産を贈与された場合には、時価等を基準として公正に評価した額をもって取得原価とする。
◆ 取得原価をゼロとする考え方の論拠
資産の取得原価は、取得に要した支払対価で測定されるべきものである。したがって、支払対価がゼロなら取得原価もゼロとすべきである。
◆ 取得原価を公正な評価額とする考え方の論拠
資産の取得原価は経済的便益を表すものである。したがって、それを反映する公正な評価額を取得原価とすべきである。
◆ 取得原価をゼロとする考え方の問題点
B/S面:固定資産の取得原価をゼロとすることで資産計上されなくなり、経済的便益を有するものが簿外資産とされるため、貸借対照表が適正な財政状態を表さない。
P/L面:固定資産の取得原価をゼロとすることで資産計上されなくなり、当該固定資産が収益獲得に貢献しても、減価償却による費用配分が行えず、適正な期間損益計算を行えない。
◆ 取得原価を公正な評価額とする考え方の問題点
贈与による固定資産の取得時に貸方を利益(受贈益)として処理すると、貨幣性資産の裏付けのない未実現利益が計上される。
減価償却(意義、目的、効果)
◆ 減価償却の意義
減価償却とは、費用配分の原則に基づいて、有形固定資産の取得原価をその耐用期間にわたって費用として配分することをいう。
◆ 減価償却の目的
減価償却の目的は、費用配分を行うことによって、適正な期間損益計算を行うことにある。
◆ 有形固定資産の費用化の特徴
有形固定資産は、棚卸資産のように数量的に減少するものではなく、価値的に減少するものである。有形固定資産の価値は、その使用や時の経過により減少する。そこで、減価償却は、有形固定資産の価値の費消パターンに一定の仮定を置いて行う必要がある。
◆ 減価償却の財務的効果
減価償却には、自己金融効果がある。すなわち、減価償却費は非資金費用であることから、貨幣性資産としての資金の流入を伴う収益のうち、減価償却費に相当する部分が資金として企業内部に留保されることになる。
◆ 貸借対照表の減価償却累計額の意味(応用)
貸借対照表の減価償却累計額は、減価償却の自己金融効果からすれば、固定資産に対する投下資金の回収額を表していると言える。
減価償却(償却方法)
◆ 生産高比例法の意義
生産高比例法とは、固定資産の耐用期間中、毎期当該資産による生産または用役の提供の度合に比例した減価償却費を計上する方法をいう。
◆ 生産高比例法の適用要件
1. 固定資産の総利用可能量が物理的に確定できること。
2. 減価が主として固定資産の利用に比例して発生すること。
◆ 生産高比例法の特徴点2つ
1. 生産高(収益)とそのコスト(費用)が合理的に対応する。
2. 適用できる資産が限定される。
無形固定資産
◆ 無形固定資産の償却
無形固定資産(各種の法的権利)は、年数の経過によって価値減少の度合いが変わるわけではないといえる。そこで、鉱業権を除き、適正な期間損益計算の見地から定額法で償却すべきと考えられる。
繰延資産(意義、根拠)
◆ 繰延資産の意義
繰延資産とは、すでに代価の支払が完了し又は支払義務が確定し、これに対応する役務の提供を受けたにもかかわらず、その効果が将来にわたって発現するものと期待される費用を、その効果が及ぶ数期間に合理的に配分するため、経過的に貸借対照表上資産として計上したものをいう。
◆ 繰延の根拠
繰延の根拠は、効果の発現という事実及び収益との対応関係を重視して、適正な期間損益計算を行うことにある。
繰延資産(資産性、問題点)
◆ 繰延資産の資産性の有無
繰延資産は将来の収益に貢献する要因となるものであるため、資産性が認められる。すなわち、資産の本質を経済的便益(または用役潜在力)と捉えれば、繰延資産が将来の収益に貢
献する要因となるものである場合には、繰延資産も経済的便益(または用役潜在力)を持つこととなり、資産性が認められる。
◆ 繰延資産は特殊な資産
繰延資産は、流動資産や固定資産とは区別して特殊な資産と言われることがある。その理由を説明すれば次のとおりである。繰延資産はすでに役務の提供を受けたものであるため換金価値はなく財産性を有していないことから、流動資産や固定資産とは区別して特殊な資産であると言われることがある。
負債会計
引当金(意義、目的、要件)
◆ 引当金の意義
引当金とは、将来の特定の費用または損失の見積額のうち、当期の負担に属する金額を見越計上したときの貸方項目をいう。
◆ 引当金の設定目的
引当金を設定する目的は、当期の収益に対応する将来の費用を当期に負担させることで、適正な期間損益計算を行うことにある。すなわち、将来支出する費用であっても、それが当期の収益獲得に貢献しているのであれば、費用収益対応の観点から当期の費用として計上すべきことになる。
◆ 引当金の計上要件4つ
1. 将来の特定の費用または損失に対するものであること
2. その発生が当期以前の事象に起因すること
3. 発生の可能性が高いこと
4. その金額を合理的に見積ることができること
引当金(計上根拠)
◆ 費用性引当金の計上根拠1
費用性引当金の計上根拠を費用収益対応の観点から説明すれば次のとおりである。
当期の収益獲得に貢献した費用は、それが将来発生するものであっても、適正な期間損益計算の観点からすれば、費用収益対応の原則により、当期の費用として認識すべきである。
◆ 費用性引当金の計上根拠2
費用性引当金の計上根拠を原因発生主義の観点から説明すれば次のとおりである。経済価値の減少原因が当期以前に存在している費用は、原因発生主義により、当期の費用として認識すべきである。
偶発債務
◆ 偶発債務の意義
偶発債務とは、現実の債務ではないが将来負担する可能性のある債務をいう。
資本会計
資本会計
◆ 会計上必要とされる自己資本の分類
会計上必要とされる自己資本の分類は、発生源泉による分類である。この分類が必要とされるのは、従来より情報開示の面で投資家から強い要請があるためである。投資家は、企業の業績を判断するために、払込資本と留保利益の区分に強い関心があるのである。
財務諸表
損益計算書原則
◆ 損益計算書の意義
損益計算書の意義をその本質に基づき説明すれば次のとおりである。損益計算書は、企業の経営成績を明らかにするため、一会計期間に属するすべての収益と、これに対応するすべての費用とを記載した報告書である。
◆ 損益計算書の総額主義の原則
費用及び収益を総額によって記載することを原則とし、費用の項目と収益の項目とを直接に相殺することによってその差額だけを表示することを禁止する。
◆ 損益計算書の総額主義の原則の目的
費用及び収益を総額で記載することによって、企業の取引規模を明示し、経営成績をより明瞭に表示することを目的としている。
貸借対照表原則
◆ 貸借対照表の意義
貸借対照表の意義をその本質に基づき説明すれば次のとおりである。貸借対照表は、企業の財政状態を明らかにするため、貸借対照表日におけるすべての資産、負債及び資本(注)を記載した報告書である。
◆ 貸借対照表完全性の原則
貸借対照表完全性の原則は、貸借対照表日におけるすべての資産、負債及び純資産を貸借対照表に記載することを要請する。ただし、正規の簿記の原則に従って処理された場合に生じた簿外資産及び簿外負債は、貸借対照表の記載外におくことができる。
財務会計総論Ⅱ
連携利益観
◆ クリーン・サープラス関係
クリーン・サープラス関係とは、ある期間における資本の増減(資本取引によるものを除く。)が、当該期間の利益と等しくなる関係をいう。
◆ 収益費用アプローチにおける利益の連携
損益計算書における当期純利益の額と貸借対照表における株主資本の当期変動額(ただし資本取引を除く。)は一致する。
◆ 資産負債アプローチにおける利益の連携
包括利益計算書における包括利益の額と貸借対照表における純資産の当期変動額(ただし資本取引を除く。)は一致する。
概念フレームワーク
財務報告の目的
◆ 財務報告の目的
財務報告の目的は、投資家による企業成果の予測と企業価値の評価に役立つような、企業の財務状況の開示にある。すなわち、財務報告の目的は、「企業の投資のポジションとその成果を測定して開示すること」である。
財務諸表の構成要素
◆ 財務諸表の構成要素となるためには
財務諸表の構成要素となるものは、その定義を満たすだけではなく、財務報告の目的に適合するものに限られる。
◆ 資産の定義
資産とは、過去の取引または事象の結果として、報告主体が支配している経済的資源をいう。
◆ 負債の定義
負債とは、過去の取引または事象の結果として、報告主体が支配している経済的資源を放棄もしくは引き渡す義務、またはその同等物をいう。
◆ 自己創設のれん
「のれん」は、他の企業を買収したり合併したり、有償で取得したものに限り資産計上が認められており、経営者が自社の「のれん」を見積って資産計上することは一切認められていない。その理由は次のとおりである。自己創設のれんを資産計上することは、経営者による企業価値の自己評価・自己申告を意味する。これは、投資家による企業成果の予測と企業価値の評価に役立つような、企業の財務状況の開示とはいえず、財務報告の目的に反しているため、「自己創設のれん」の資産計上は認められない。
投資のリスクからの解放
◆ 投資のリスクからの解放
「投資のリスクからの解放」とは、投資にあたって期待された成果が事実として確定することをいう。
貸借対照表の純資産の部の表⽰に関する会計基準
純資産の部
◆ 純資産の部に記載される項目
純資産の部には、資産性及び負債性をもたないものが記載される。
株主資本
◆ 株主資本の区分を大きく2つに分類する理由
株主資本を払込資本と留保利益に分類するのは、資本の発生源泉別の分類である。資本を発生源泉により分類することは、情報開示の面で従来から強い要請があったからである。
◆ 株主資本と株主資本以外の各項目とを区分する理由
財務報告における情報開示の中で、特に重要なのは、投資の成果を表す利益の情報であり、報告主体の所有者に帰属する「当期純利益」と、これを生み出す投資の正味ストックとしての「株主資本」は重視される。このため、純資産を株主資本と株主資本以外の各項目に区分する。
株主資本以外の各項目
◆ 評価・換算差額等が純資産の部に記載され、かつ株主資本以外の項目とされている理由
評価・換算差額等は資産性及び負債性をもたないため、純資産の部に記載される。
さらに、評価・換算差額等は、払込資本ではなく、かつ、未だ当期純利益に含められていないことから、株主資本とは区別される。
◆ 新株予約権が純資産の部に記載され、かつ株主資本以外の項目とされている理由
新株予約権は、返済義務のある負債ではなく、負債の部に表示することは適当ではないため、純資産の部に記載する。さらに、新株予約権は、報告主体の所有者である株主とは異なる新株予約権者との直接的な取引によるものであり、株主に帰属するものではないため、株主資本とは区別される。
◆ 新株予約権の性格
新株予約権は、将来、権利行使され払込資本となる可能性がある一方、失効して払込資本とはならない可能性もある。このように、発行者側の新株予約権は、権利行使の有無が確定するまでの間、その性格が確定しない。
⾃⼰株式及び準備⾦の額の減少等に関する会計基準
資本剰余金と利益剰余金の混同禁止
◆ 混同禁止の理由
資本剰余金を利益剰余金へ振り替えることを無制限に認めると、払込資本と払込資本を利用して得られた成果を区分することが困難になるためである。
◆ 混同禁止の例外2つ
1.利益剰余金が負の残高のときにその他資本剰余金で補てんする。
2.その他資本剰余金が負の残高のときに利益剰余金で補てんする。
自己株式の性格、取得・保有
◆ かつて提唱されていた考え方
1.「資産説」の意義
自己株式の会計上の性格についての「資産説」とは、自己株式を資産として扱う考え方である。
2.「資産説」の根拠
自己株式を取得したのみでは未だ株式は失効しておらず、自己株式を他の有価証券と同様に換金性のある会社財産とみることができるため資産として扱うべきである。
◆ 今日の制度会計上の考え方
1.「資本控除説」の意義
自己株式の会計上の性格についての「資本控除説」とは、自己株式を資本の控除として扱う考え方である。
2.「資本控除説」の根拠
自己株式の取得は株主との間の資本取引であり、会社所有者に対する会社財産の払戻しの性格を有するものとみることができるため資本の控除として扱うべきである。
3.自己株式の処分
◆ 自己株式処分差益がその他資本剰余金の増加項目とされる理由
自己株式の処分が新株の発行と同様の経済的実態を有する点を考慮すると、その処分差額も株主からの払込資本と同様の経済的実態を有すると考えられ、また、自己株式処分差益は会社法上分配可能額からの控除項目とはされていないことから、その他資本剰余金に計上することが適切である。
◆ 自己株式処分差損がその他資本剰余金の減少項目とされる理由
自己株式の処分が新株の発行と同様の経済的実態を有する点を考慮すると、自己株式処分差損は払込資本の払戻しと同様の性格を持つものとして、資本剰余金の額の減少と考えるべきであり、また、資本準備金からの減額が会社法上の制約を受けるため、その他資本剰余金からの減額が適切であると考えられる。
その他資本剰余金の負の残高、自己株式に関する付随費用
◆ その他資本剰余金の負の残高を表示することを認めない理由
資本剰余金は株主からの払込資本のうち資本金に含まれないものを表すため、本来負の残高の資本剰余金という概念は想定されない。したがって負の残高を表示すべきではない。
◆ 自己株式に関する付随費用を営業外費用とする理由
自己株式に関する付随費用は財務費用であり、会社の意思決定に左右されるため、会社の業績に反映させるべきだからである。
株主資本等変動計算書に関する会計基準
目的、範囲、表示
◆ 純資産の部のうち、株主資本のみを記載する考え方
財務報告における情報開示の中で、財務諸表利用者にとって特に重要な情報は投資の成果を表す利益の情報であり、当該情報の主要な利用者であり受益者である株主に対して、当期純利益とこれを生み出す株主資本との関係を示すことが重要である。
◆ 株主資本と株主資本以外の各項目とで表示方法に差異を設けた理由
株主資本と株主資本以外の項目とでは、一会計期間における変動事由ごとの金額に関する情報の有用性が異なるため、表示方法に差異を設けている。
ストック・オプション等に関する会計基準
費用認識
◆ かつて費用認識されていなかった理由
ストック・オプションの付与は、かつては費用認識されていなかった。その主な理由は次のとおりである。
1. ストック・オプションは無償で付与されているのだから、対価性がない。
2. ストック・オプションを付与しても、企業には現金その他の会社財産の流出が生じないため、財貨の消費事実がなく、そもそも費用が発生していない。
◆ 費用認識する根拠
ストック・オプションの付与には費用性があるとする根拠を説明すれば次のとおりである。
従業員等に付与されたストック・オプションを対価として、これと引換えに、企業に追加的にサービスが提供され、企業に帰属することとなったサービスを消費したことに費用認識の根拠がある。
◆ 費用認識を採用した理由
企業に帰属し、貸借対照表に計上されている財貨を消費した場合に費用認識が必要である以上、企業に帰属しているサービスを消費した場合にも費用を認識するのが整合的である。
権利行使と権利不行使
◆ 権利不行使による失効を利益とする理由
ストック・オプションの付与により計上された新株予約権が、権利確定後に失効した場合、失効部分を利益に計上するが、なぜ利益とされるのか、その理由を説明すれば次のとおりである。新株予約権が行使されないまま失効すれば、結果として会社は株式を時価未満で引き渡す義務を免れることになるため、会社は無償で提供されたサービスを消費したと考えることができる。このように、新株予約権を付与したことに伴う純資産の増加が、株主との直接的な取引によらないこととなった場合には、それを利益に計上した上で株主資本に算入する。
リース取引に関する会計基準
ファイナンス・リース取引
◆ ファイナンス・リース取引の要件2つ
1. 解約不能の要件。
2. フルペイアウトの要件。
◆ ファイナンス・リース取引の要件
フルペイアウトの要件を説明すれば、次のとおりである。
フルペイアウトとは、借手が、リース物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することをいう。
売買処理と賃貸借処理
◆ 賃貸借処理の問題点
リース取引の経済的実態が、リース物件を売買した場合と同様の状態にあると認められるものについて、これを賃貸借取引として処理することは、その取引実態を財務諸表に的確に反映するものとはいえない。
◆ 売買処理が採用された理由(応用)
ファイナンス・リース取引は、法的形式は賃貸借取引であるが、その経済的実態は資産の割賦売買と同様である。この点に着目し、ファイナンス・リース取引と資産の割賦売買取引との会計処理の比較可能性を考慮し、売買処理が採用された。
◆ リース資産の資産性
リース取引の借手はリース物件からもたらされる経済的利益を享受する権利を有していることから、リース資産には資産性が認められる。
◆ リース債務の負債性
リース取引の借手はリース期間にわたってリース料を支払う義務があることから、リース債務には負債性が認められる。
研究開発費等に係る会計基準
研究開発費の発生時費用処理
◆ 研究開発費の制度会計上の処理
研究開発費は、すべて発生時に費用として処理しなければならない。
◆ 一律に費用処理することとした目的
研究開発費を一律に費用処理することとしたのは、重要な投資情報である研究開発費について、企業間の比較可能性を担保することが必要だからである。
◆ すべて資産計上する処理
研究開発費をすべて資産計上する処理の論拠、問題点、否定(費用処理の論拠)
論拠:研究開発は将来の収益やキャッシュの獲得に貢献することを期待して行われる。したがって、そのような期待を反映させるべく、研究開発費を資産計上するのが適当である。
問題点(応用):研究開発活動が失敗した場合、収益やキャッシュの獲得に貢献しないものまで資産計上させてしまうことになり、結果として損失の繰延べとなるおそれがあるという問題がある。
否定(費用処理の論拠):研究開発費は、発生時には将来の収益を獲得できるか否か不明であり、また、研究開発計画が進行し、将来の収益の獲得期待が高まったとしても、依然としてその獲得が確実であるとはいえない。そのため、研究開発費を資産として貸借対照表に計上することは適当でない。
ソフトウェア
◆ 市場販売目的のソフトウェアを無形固定資産に表示する理由
市場販売目的のソフトウェアの制作費のうち資産計上されるものについて、なぜ無形固定資産に計上するのか、その理由を説明すれば次のとおりである。製品マスター自体が販売の対象物ではないこと、製品マスターは機械装置等と同様にこれを利用(複写)して製品を作成するものであること、製品マスターは法的権利(著作権)を有していること、製品マスター
は適正な原価計算により取得原価を明確化できること、以上から無形固定資産に計上される。
⾦融商品に関する会計基準
金融商品の発生と消滅
◆ 金融資産の発生はいつ認識
金融資産の契約上の権利を生じさせる契約を締結したときは、原則として、当該金融資産の発生を認識しなければならない。
◆ 金融商品の発生を上記のように認識する理由
金融資産又は金融負債自体を対象とする取引については、当該取引の契約時から当該金融資産又は金融負債の時価の変動リスクや契約の相手方の財政状態等に基づく信用リスクが契約当事者に生じるため、契約締結時においてその発生を認識する。
金融商品の評価
◆ 売買目的有価証券を時価で評価する理由
時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券(売買目的有価証券)については、投資者にとっての有用な情報は有価証券の期末時点での時価に求められると考えられるからである。
◆ 売買目的有価証券の評価差額を当期の損益とする理由
売買目的有価証券は、売却することについて事業遂行上等の制約がなく、時価の変動にあたる評価差額が企業にとっての財務活動の成果と考えられるからである。
◆ 満期保有目的の債券を時価評価しない理由
満期保有目的の債券については、時価が算定できるものであっても、満期まで保有することによる約定利息及び元本の受取りを目的としており、満期までの間の金利変動による価格変動のリスクを認める必要がないからである。
◆ 子会社株式を時価評価しない理由
子会社株式については、事業投資と同じく時価の変動を財務活動の成果とは捉えないという考え方に基づくためである。
◆ その他有価証券を一律に時価評価する理由
その他有価証券は、多様な性格を有しており、一義的にその属性を定めることは難しい。
そこで、金融資産の評価の基本に立てば、時価による自由な換金・決済等が可能な金融資産については、投資情報としても、企業の財務認識としても、時価評価するべきである。
◆ その他有価証券の評価差額を当期の損益としない理由
その他有価証券の時価は投資者にとって有用な投資情報であるが、その他有価証券については、事業遂行上等の必要性から直ちに売買・換金を行うことには制約を伴う要素もあり、評価差額を直ちに当期の損益として処理することは適切ではないと考えられるからである。
ヘッジ会計
◆ ヘッジ取引を行う目的
ヘッジ取引を行う目的は、ヘッジ対象である資産又は負債の価格変動、金利変動及び為替変動といった相場変動等による損失の可能性を減殺することにある。
◆ ヘッジ会計の意義
ヘッジ会計とは、ヘッジ取引のうち一定の要件を充たすものについて、ヘッジ対象に係る損益とヘッジ手段に係る損益を同一の会計期間に認識し、ヘッジの効果を会計に反映させるための特殊な会計処理をいう。
◆ ヘッジ会計の必要性(ヘッジ取引にヘッジ会計を適用しない場合の問題点)
ヘッジ手段であるデリバティブ取引については、原則的な処理方法によれば時価評価され損益が認識されることとなるが、ヘッジ対象の資産に係る相場変動等が損益に反映されない場合には、両者の損益が期間的に合理的に対応しなくなり、ヘッジ対象の相場変動等による損失の可能性がヘッジ手段によってカバーされているという経済的実態が財務諸表に反映されないこととなる。ここにヘッジ会計の必要性が認められる。
◆ ヘッジ会計の目的
ヘッジ会計の目的は、ヘッジ対象の資産に係る相場変動等が損益に反映されない場合に、ヘッジ対象及びヘッジ手段に係る損益を同一の会計期間に認識し、ヘッジの効果を財務諸表に反映させることにある。
固定資産の減損に係る会計基準
固定資産の減損・減損処理
◆ 減損の意義
固定資産の減損とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態をいう。
◆ 減損処理の意義
固定資産の減損処理とは、固定資産の減損が生じた場合に、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理をいう。
◆ 減損処理の目的
固定資産の減損処理の目的は、固定資産の収益性が低下している場合に、事業用資産の過大な帳簿価額を減額し、将来に損失を繰り延べないようにすることにある。
減損処理について
◆ 減損処理と時価評価の相違点
固定資産の減損処理は、取得原価基準の下で行われる帳簿価額の臨時的な減額であるのに対し、時価評価は、資産価値の変動によって利益を測定することや、決算日における資産価値を貸借対照表に表示することを目的とする手続である。
◆ 事業用の固定資産を原価評価する理由
事業用の固定資産については、通常、市場平均を超える成果を期待して事業に使われているため、市場の平均的な期待で決まる時価が変動しても、企業にとっての投資の価値がそれに応じて変動するわけではない。また、投資の価値自体も、投資の成果であるキャッシュ・フローが得られるまでは実現したものではない。そのため、事業用の固定資産は原価評価される。
◆ 本来的な減損処理とは
減損処理は、本来、投資期間全体を通じた投資額の回収可能性を評価し、投資額の回収が見込めなくなった時点で、将来に損失を繰延べないために帳簿価額を減額する会計処理と考えられる。
◆ 減損会計基準が採用している減損処理
減損会計基準が採用した処理は、期末の帳簿価額を将来の回収可能性に照らして見直すだけである。
◆ 減損会計基準が採用した処理に対する批判
本来的な減損処理からすれば、期末の帳簿価額を将来の回収可能性に照らして見直すだけでは、収益性の低下による減損損失を正しく認識することはできない。
減損の会計処理と減損処理後の会計処理
◆ 帳簿価額を割引前将来キャッシュ・フローの総額と比較する理由
減損損失を認識するかどうかの判定を、割引前将来キャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比較することによって行う理由は次のとおりである。
減損損失の測定は、将来キャッシュ・フローの見積りに大きく依存する。将来キャッシュ・フローが約定されている場合の金融資産と異なり、成果の不確定な事業用資産の減損は、測定が主観的にならざるを得ない。したがって、減損の存在が相当程度に確実な場合に限って減損損失を認識することが適当である。
◆ 減損損失の戻入れを行わない理由
減損処理後に減損損失の戻入を行わないのは、制度会計上、減損の存在が相当程度に確実な場合に限って減損損失を認識及び測定することとしているためである。
棚卸資産の評価に関する会計基準
棚卸資産の範囲と評価方法
◆ 棚卸資産の意義
棚卸資産とは、主として、企業がその営業目的を達成するために所有し、かつ、売却を予定する資産をいう。
◆ 個別法の長所
個別法は、棚卸資産の実際の流れとその原価の流れが完全に一致する方法である。したがって、個別法によれば、事実に合致した最も正確な費用配分が可能となる。
◆ 個別法の問題点
個別法を大量仕入品の払出に適用すると、払出単価を恣意的に選択することができるため、利益操作が可能となるという問題点がある。
◆ 後入先出法が適正な期間損益計算に資すると言われる理由
後入先出法によると、売上原価の価額は後で仕入れた新しい価額となる。したがって、価格変動時には、売上高と売上原価とが同一価格水準で対応する。その結果、利益額から保有損益を排除できるためである。
◆ 後入先出法が廃止された主な理由(資産負債アプローチの観点)
後入先出法によると、期末棚卸資産の価額は過去の古い価額となる。したがって、価格変動時には、期末棚卸資産の価額が期末の時価と大幅に乖離するおそれがある。すなわち、貸借対照表価額が期末の経済的実態を反映していないという問題があるからである。
簿価の切下げ
◆ 棚卸資産の収益性が低下した場合における簿価切下げの目的
棚卸資産の収益性が低下した場合における簿価切下げの目的は、取得原価基準の下で回収可能性を反映させるように、過大な帳簿価額を減額し、将来に損失を繰り延べないようにすることにある。
◆ 収益性の低下による簿価の切下げは時価評価ではないのか
収益性の低下による簿価の切下げは、取得原価基準の下で行われる原価配分の手続であり、時価評価ではない。ここでいう取得原価基準とは、取得原価のうち回収可能な原価だけを繰り越そうとする考え方である。この考え方によれば、収益性の低下による簿価の切下げは、取得原価のうち収益性の低下により失われた経済的便益を回収不能な原価であるとして、それを当期の費用に配分する手続であるということになる。
◆ 帳簿価額を正味売却価額と比較する理由
棚卸資産の収益性が低下しているかどうかの判断は、帳簿価額と正味売却価額との比較によって行うが、その理由は次のとおりである。
棚卸資産の場合には、通常、販売によってのみ資金の回収を図る点に特徴がある。
このような投資の回収形態の特徴を踏まえると、評価時点における資金回収額を示す棚卸資産の正味売却価額が、その帳簿価額を下回っているときには、収益性が低下していると考えることになるからである。
退職給付に関する会計基準
退職給付債務と年金資産
◆ 退職給付の意義
退職給付とは、一定の期間にわたり労働を提供したこと等の事由に基づいて、退職以後に支給される給付をいう。
◆ 退職給付の性格
退職給付の性格は、労働の対価として支払われる賃金の後払いである。
◆ 給付算定式基準が採用される論拠
勤続年数の増加に応じた労働サービスの向上を踏まえれば、毎期の費用を定額とする期間定額基準よりも、給付算定式に従って費用が増加するという取扱いの方が実態をより表すものと考えられる。
◆ 期間定額基準がかつて原則的な方法として採用されていた論拠(積極的論拠)
期間定額基準は、国際的にも合理的で簡便な方法であると考えられており、適用の明確さでより優れていると考えられる。
◆ 期間定額基準が廃止されなかったことの論拠(消極的論拠)
我が国の退職給付会計では退職給付見込額の期間帰属方法を費用配分の方法として捉えており、直接観察できない労働サービスの費消態様に合理的な仮定を置かざるを得ないことを踏まえれば、労働サービスに係る費用配分の方法は一義的に決まらず、勤務期間を基礎とする費用配分の方法(期間定額基準)についても、これを否定する根拠は乏しい。
◆ 年金資産の額を退職給付債務から控除する理由(年金資産を独立して貸借対照表に計上しない理由)
年金資産は退職給付の支払のためのみに使用されることが制度的に担保されていることなどから、これを収益獲得のために保有する一般の資産と同様に企業の貸借対照表に計上することには問題があり、かえって、財務諸表の利用者に誤解を与えるおそれがあると考えられるためである。
数理計算上の差異
◆ 未認識数理計算上の差異の意義
未認識数理計算上の差異とは、数理計算上の差異のうち当期純利益を構成する項目として費用処理されていないものをいう。
◆ 遅延認識の意義
遅延認識とは、発生年度に全額費用処理せず、発生年度の翌期以降に繰り延べて費用処理することをいう。
◆ 数理計算上の差異を遅延認識する理由
数理計算上の差異には予測と実績の乖離のみならず予測数値の修正も反映されることから各期に生じる差異を直ちに費用として計上することが退職給付に係る債務の状態を忠実に表現するとはいえない面がある。このように、数理計算上の差異の性格を一時の費用とすべきものとして一義的に決定づけることは難しいと考えられる。したがって、数理計算上の差異は遅延認識すべきである。
◆ 重要性基準とは
重要性基準とは、基礎率等の計算基礎に重要な変動が生じない場合には計算基礎を変更しない等、計算基礎の決定にあたって合理的な範囲で重要性による判断を認める方法をいう。
◆ 回廊アプローチとは
回廊アプローチとは、退職給付債務の数値を毎期末時点において厳密に計算し、その結果生じた計算差異に一定の許容範囲(回廊)を設ける方法をいう。
◆ 重要性基準を採用した理由
退職給付会計基準が重要性基準を採用したのは、退職給付費用が長期的な見積計算であることから、重要性による判断を認めることが適切と考えられるためである。
遅延認識の廃止(連結上の取扱い)
◆ 貸借対照表上の遅延認識の問題点の指摘(個別会計)
かつては、数理計算上の差異及び過去勤務費用を平均残存勤務期間以内の一定の年数で規則的に処理することとし、費用処理されない部分(未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用)については貸借対照表に計上せず、これに対応する部分を除いた、積立状況を示す額を負債(又は資産)として計上することとしていた。しかし、一部が除かれた積立状況を示す額を貸借対照表に計上する場合、積立超過のときに負債(退職給付引当金)が計上されたり、積立不足のときに資産(前払年金費用)が計上されたりすることがあり得るなど、退職給付制度に係る状況について財務諸表利用者の理解を妨げているのではないかという指摘があった。
資産除去債務に関する会計基準
資産除去債務の意義
◆ 資産除去債務を負債計上する理由
資産除去債務は法律上の義務及びそれに準ずるものであり、有形固定資産の除去サービスに係る支払いが不可避的に生じることから、支払い義務を負っているのと同等であるため、負債計上される。
資産負債の両建処理
◆ 資産負債の両建処理の意義
資産除去債務に係る資産負債の両建処理とは、有形固定資産の取得等に付随して不可避的に生じる除去サービスの債務を負債として計上するとともに、対応する除去費用をその取得原価に含める処理をいう。すなわち、有形固定資産の除去時に不可避的に生じる支出額を付随費用と同様に取得原価に加えた上で費用配分を行うものである。
◆ 引当金処理の意義
資産除去債務に係る引当金処理とは、有形固定資産の除去サービスの費消を、当該有形固定資産の使用に応じて各期間に費用配分し、それに対応する金額を負債として認識する処理をいう。
◆ 引当金処理の問題点
引当金処理によると、有形固定資産の除去に必要な金額が貸借対照表に計上されないことから、資産除去債務の負債計上が不十分であるという問題がある。
◆ 資産負債の両建処理が採用された理由1(負債計上の観点からの理由)
引当金処理の場合には、有形固定資産の除去に必要な金額が貸借対照表に計上されないことから、資産除去債務の負債計上が不十分であるのに対し、資産負債の両建処理の場合には、資産除去債務の全額を負債として計上することになるためである。
◆ 資産負債の両建処理が採用された理由2(費用計上の観点からの理由)
資産負債の両建処理は、有形固定資産に対応する除去費用が、減価償却を通じて、当該有形固定資産の使用に応じて各期に費用配分されるため、資産負債の両建処理は引当金処理を包摂するためである。
除去費用の資産計上と費用配分
◆ 除去費用の資産計上の論拠1(投資回収の観点)
資産除去債務に対応する除去費用を有形固定資産の取得原価に含めることは、当該資産への投資について回収すべき額を引き上げることを意味する。
◆ 除去費用の資産計上の論拠2(情報提供の観点)
資産除去取引を資産取得取引と一体のものとして捉え、資産除去費用を付随費用と同様に取得原価に加えた上で費用配分を行うことで、投資家に対して有用な情報を提供することができる。
資産除去債務の見積りの変更
◆ 会計基準の採用した資産除去債務の見積変更時の処理方法
資産除去債務の見積変更時の処理方法として、「資産除去債務会計基準」が採用した方法は、プロスペクティブ・アプローチである。この方法は、見積りの変更による調整額を資産除去債務に係る負債及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して、減価償却を通じて残存耐用年数にわたり費用配分を行う方法である。
◆ プロスペクティブ・アプローチが採用された理由
会計上の見積りの変更については、国際的な会計基準において、将来に向かって修正する方法が採用されていることに加え、我が国の現行の会計慣行においても耐用年数の変更については影響額を変更後の残存耐用年数で処理する方法が一般的であることなどから、プロスペクティブ・アプローチにより処理することとされた。
⼯事契約に関する会計基準
工事損失引当金
◆ 工事損失とは
工事損失とは、工事原価総額等が工事収益総額を超過すると見込まれる額をいう。
◆ 工事損失引当金を計上するのはどのような場合か
工事損失引当金を計上するのは、工事契約について、工事損失が発生する可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合である。
◆ 工事損失が見込まれる場合の取扱い
工事契約について、工事損失が見込まれる場合には、工事損失のうち、当該工事契約に関して既に計上された損益の額を控除した残額を、工事損失が見込まれた期の損失として処理し、工事損失引当金を計上する。
◆ 工事損失引当金の計上目的
工事損失引当金を計上する目的は、工事契約において損失が見込まれる場合、すなわち投資額を回収できないような事態において、将来に損失を繰り延べないようにすることにある。
◆ 工事損失引当金の計上理由
正常な利益を獲得することを目的とする企業行動において、投資額を回収できないような事態が生じた場合には、将来に損失を繰延べないための会計処理を行うことで、財務諸表利用者に有用な情報を提供することができるからである。
会計⽅針の開⽰、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準
会計方針の変更
◆ 会計方針の変更はどのような場合に認められるか
正当な理由により変更を行う場合。
◆ 「正当な理由」により会計方針の変更を行った場合の原則的な取扱い
新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用する。
◆ 会計方針の変更を行った場合に遡及適用を行う理由
財務諸表の比較可能性の観点からの理由の説明:
会計方針の変更を行った場合に過去の財務諸表に対して新しい会計方針を遡及適用すれば、原則として財務諸表本体のすべての項目に関する情報が比較情報として提供されることにより、特定の項目だけではなく、財務諸表全般についての比較可能性が高まるものと考えられるからである。
情報の有用性という観点からの理由の説明:
当期の財務諸表との比較可能性を確保するために、過去の財務諸表を変更後の会計方針に基づき比較情報として提供することにより、情報の有用性が高まることが期待される。
会計上の見積りの変更
◆ 遡及処理しない理由
会計上の見積りの変更は、新しい情報によってもたらされるものであるとの認識から、過去に遡って処理せず、その影響は将来に向けて認識するという考え方がとられているためである。
◆ 減価償却方法を変更したときに遡及適用しない理由
有形固定資産の減価償却方法の変更は、計画的・規則的な償却方法の中での変更であることから、その変更は会計方針の変更ではあるものの、その変更の場面においては固定資産に関する経済的便益の消費パターンに関する見積りの変更を伴うものと考えられる。すなわち、会計上の見積りの変更を起因として会計方針の変更が行われるケースであるため、会計上の見積りの変更と同様に取り扱い、遡及適用は行わないこととされる。
税効果会計に係る会計基準
税効果会計の目的
◆ 税効果会計基準より抜粋
第一 税効果会計の目的
税効果会計は、企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合において、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金(以下「法人税等」という。)の額を適切に期間配分することにより、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続である。
税効果会計の方法
◆ 繰延法の意義
繰延法とは、会計上の収益又は費用の金額と税務上の益金又は損金の額に相違がある場合、その相違項目のうち、損益の期間帰属の相違に基づく差異(期間差異)について、発生した年度の当該差異に対する税金軽減額又は税金負担額を差異が解消する年度まで貸借対照表上、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上する方法である。
◆ 資産負債法の意義
資産負債法とは、会計上の資産又は負債の金額と税務上の資産又は負債の金額との間に差異があり、会計上の資産又は負債が将来回収又は決済されるなどにより当該差異が解消されるときに、税金を減額又は増額させる効果がある場合に、当該差異(一時差異)の発生年度にそれに対する繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する方法である。
◆ 資産負債法が採用された理由
資産負債法は、税率の変更に応じて繰延税金資産又は繰延税金負債の金額を修正するため、繰延税金資産又は繰延税金負債が将来の法人税等の支払額を減額又は増額する効果をより適切に表すといえるからである。
繰延税金資産と繰延税金負債
◆ 繰延税金資産は「資産」か(資産性の有無)
繰延税金資産は、将来の法人税等の支払額を減額する効果を有し、一般的には法人税等の前払額に相当するため、資産としての性格を有するものと考えられる。
◆ 繰延税金負債は「負債」か(負債性の有無)
繰延税金負債は、将来の法人税等の支払額を増額する効果を有し、法人税等の未払額に相当するため、負債としての性格を有するものと考えられる。
◆ 繰延税金資産に回収可能性が認められるための要件3つ
収益力に基づく課税所得の十分性、タックスプランニングの存在、将来加算一時差異の十分性。
外貨建取引等会計処理基準
決算時の換算と決済損益
◆ テンポラル法が理論上最も妥当とされる理由
テンポラル法は、外貨によって既に測定されている項目の属性を変更しないように、測定時点と同じ時点における為替相場により換算するため、属性を維持した換算を行うことができるからである。
◆ 一取引基準とは
一取引基準とは、外貨建取引と代金決済取引とを連続した1つの取引とみなして会計処理を行う考え方をいう。
◆ 二取引基準とは
二取引基準とは、外貨建取引と代金決済取引とを独立した別個の取引とみなして会計処理を行う考え方をいう。
連結財務諸表に関する会計基準
連結財務諸表総論
◆ 「連結はずし」を排除するため、連結会計基準はどのような配慮をしているか
連結会計基準は、子会社の判定基準として支配力基準を採用している。支配力基準とは、議決権の所有割合以外の要素を加味し、会社の意思決定機関を支配しているかどうかという観点から子会社を判定する基準である。これによれば、いわゆる「連結はずし」を排除することができる。すなわち、一時的に議決権の所有割合を100分の50以下にすることで、事実上は支配している会社を意図的に連結の範囲から外すようなことができなくなるからである。
連結基礎概念
◆ 連結基礎概念2つの意義
親会社説とは、連結財務諸表を親会社の財務諸表の延長線上に位置づけて、親会社の株主の持分のみを反映させる考え方をいう。経済的単一体説とは、連結財務諸表を親会社とは区別される企業集団全体の財務諸表と位置づけて、連結財務諸表には企業集団を構成するすべての連結会社の株主の持分を反映させる考え方をいう。
連結貸借対照表の作成基準
◆ 非支配株主持分の表示
非支配株主持分を純資産の部に記載する理由
非支配株主持分は、子会社の資本のうち親会社に帰属していない部分であり、返済義務のある負債でもなく、また、連結財務諸表における親会社株主に帰属するものでもないため、純資産の部に記載する。
包括利益の表⽰に関する会計基準
包括利益とは
◆ 包括利益は純利益よりも客観性が高いと言われる理由
その他有価証券について言えば、純利益の計算においては、その他有価証券の時価の変動をいつ純利益に含めるか(いつ売却するか)が、経営者の意思に左右されることになるのに対し、包括利益の計算においては、その他有価証券の売却時期にかかわらず、時価の変動が直ちに利益として認識されるため、この点で利益に経営者の意思が介入しないことになる。したがって包括利益の方が客観性が高いと言われる。
包括利益を表示する目的と効果
◆ 包括利益を表示する目的
包括利益を表示する目的は、純資産の変動を報告することにある。
◆ 包括利益を表示することの効果(有用性)
1. 投資家等の財務諸表利用者が企業全体の事業活動について検討するのに役立つ。
2.貸借対照表との連携(純資産と包括利益とのクリーン・サープラス関係)を明示することを通じて、財務諸表の理解可能性と比較可能性を高める。
◆ 包括利益の表示を導入する目的
包括利益の表示の導入は、包括利益を企業活動に関する最も重要な指標として位置づけることを意味するものではなく、当期純利益に関する情報と併せて利用することにより、企業活動の成果についての情報の全体的な有用性を高めることを目的とするものである。
その他の包括利益
◆ 組替調整額を控除する理由
前期にその他の包括利益に含まれていたもの(例えばその他有価証券評価差額金など)が、当期に当期純利益に含まれた場合(売却して売却益となった場合)、このままでは前期の包括利益に含まれるとともに当期もまた包括利益に含まれることとなり、そのままでは包括利益として二重に計算されてしまうことになる。したがって、前期の「その他の包括利益」のうち当期の純利益に含まれた分は、包括利益の計算上、控除する必要がある。
企業結合に関する会計基準
企業結合の経済的実態
◆ 「取得」における持分の継続・非継続
「取得」に該当する企業結合(例えば通常の吸収合併)においては、取得企業の持分は継続しているのに対し、被取得企業の持分はその継続が断たれているとみなされる。したがって、取得企業の資産・負債は帳簿価額で結合後企業に引き継がれるのに対し、被取得企業の資産・負債は時価により結合後企業が計上すべきこととなる。この場合に適合する会計処理方法はパーチェス法である。
パーチェス法と持分プーリング法
◆ パーチェス法
パーチェス法とは、被結合企業から受け入れる資産及び負債の取得原価を、対価として交付する現金及び株式等の時価(公正価値)とする方法をいう。パーチェス法は、「取得」となる企業結合に適合する。
のれんと負ののれん
◆ 「のれん」を規則的に償却すべきとする論拠
収益と費用の対応の観点
のれんを規則的に償却することで、企業結合の成果たる収益と、その対価の一部を構成する投資消去差額の償却という費用の対応が可能になる。
◆ 自己創設のれんを資産計上してはならない理由
自己創設のれんの資産計上は、経営者による企業価値の自己評価・自己申告を意味する。これは、投資家による企業成果の予測と企業価値の評価に役立つような、事実としての企業の財務状況を開示するという財務報告の目的に反することになるからである。
◆ 負ののれんを利益計上する理由
負ののれんの発生原因を認識不能な項目やバーゲン・パーチェスであると位置付け、現実には異常かつ発生の可能性が低いことから、異常利益としての処理が妥当であると考えられるためである。
◆ 「のれん」が資産なら、それと対称的に「負ののれん」は負債ではないのか
のれんは資産として計上されるべき要件を満たしているが、負ののれんは負債として計上されるべき要件を満たしていない。すなわち、負ののれんは経済的資源を放棄もしくは引き渡す義務とはならないため、負ののれんに負債性はないと言える。
事業分離等に関する会計基準
分離元企業の会計処理
◆ 分離元企業はどのような場合に移転損益を認識するか
分離元企業は、移転した事業に関する投資が清算されたとみる場合には移転損益を認識する。
◆ 分離元企業はどのような場合に移転損益を認識しないか
分離元企業は、移転した事業に関する投資がそのまま継続しているとみる場合には移転損益を認識しない。
◆ 事業分離が投資の清算に該当するのはどのような場合か
事業分離において、分離元企業が現金など、移転した事業と明らかに異なる資産を対価として受け取る場合。
◆ 事業分離が投資の継続に該当するのはどのような場合か
事業分離において、分離元企業が子会社株式や関連会社株式となる分離先企業の株式のみを対価として受け取る場合。
◆ 事業分離の対価として、子会社株式や関連会社株式となる分離先企業の株式のみを受け取った場合に、移転損益を認識しない理由
事業分離の対価として、子会社株式や関連会社株式となる分離先企業の株式のみを受け取る場合は、当該株式を通じて、移転した事業に関する事業投資を引き続き行っていると考えられることから、当該事業に関する投資が継続しているとみなされるためである。
連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準
C/F計算書(C/S)の意義・目的・必要性
◆ キャッシュ・フロー計算書の意義
キャッシュ・フロー計算書は、一会計期間におけるキャッシュ・フローの状況を一定の活動区分別に表示するものである。
◆ キャッシュ・フロー計算書の必要性
発生主義会計上は利益が計上されていても、支払いに必要な資金が不足すると企業は倒産する場合がある(いわゆる黒字倒産)。そこで、投資家に対して有用な資金情報を提供することで、財務会計の情報提供機能を果たすためにキャッシュ・フロー計算書が必要とされる。
◆ P/L情報の性質とC/S情報の性質
損益計算書は発生主義に基づいた利益情報であるのに対し、キャッシュ・フロー計算書は事実に基づいた資金情報である。
◆ P/L情報の短所とC/S情報の長所
損益計算書は経営者による主観的判断の介入する余地が多く、恣意的な操作が可能であるという点が短所となるのに対し、キャッシュ・フロー計算書は経営者による主観的判断の介入する余地がほとんどなく、恣意的な操作は困難である点が長所である。
賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準
賃貸等不動産の時価の開示
◆ 賃貸等不動産の時価を開示する(注記する)理由
賃貸等不動産は、その時価が企業にとっての価値を示すものと考えられるためである。すなわち、賃貸等不動産は短期的な売却の可能性も高く、売却による回収額を意味する時価以上のキャッシュ・フローは見込めないものであるため、時価が投資家にとって有用な情報となると考えられることから、時価を注記することとされる。
役員賞与に関する会計基準
◆ 役員賞与を費用処理する理由
役員賞与は利益をあげた功労に報いるために支給されるという見解がある。しかし、会社の利益は職務執行の成果であり、この功労に報いるために支給される役員賞与も、経済的実態としては、業績連動型の役員報酬と同様に、職務執行の対価と考えられるため、費用処理すべきである。
四半期財務諸表に関する会計基準
四半期財務諸表の性格
◆ 予測主義の問題点
予測主義によると、実績主義に比べてより多くの見積りや予測が必要となり、経営者による恣意的な判断の介入の余地が大きくなる。
◆ 実績主義が採用される理由
1.四半期財務諸表は、四半期会計期間の実績を明らかにすることにより、将来の業績予測に資する情報を提供するものと位置付けることが適当と考えられる。
2. 恣意的な判断の介入の余地を考慮すれば、「予測主義」より「実績主義」が適当である。
収益認識に関する会計基準
用語の定義
7.「履行義務」とは、顧客との契約において、次の(1)又は(2)のいずれかを顧客に移転する約束をいう。
(1) 別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束)
(2) 一連の別個の財又はサービス
8.「取引価格」とは、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額(ただし、第三者のために回収する額を除く。)をいう。
会計処理
1.基本となる原則
16.本会計基準の基本となる原則は、約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益を認識することである。
17.前項の基本となる原則に従って収益を認識するために、次の(1)から(5)のステップを適用する。
(5) 履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する。
約束した財又はサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、充足した履行義務に配分された額で収益を認識する。履行義務は、所定の要件を満たす場合には一定の期間にわたり充足され、所定の要件を満たさない場合には一時点で充足される。
2.収益の認識基準
(5)履行義務の充足による収益の認識
35.企業は約束した財又はサービス(本会計基準において、顧客との契約の対象となる財又はサービスについて、以下「資産」と記載することもある。)を顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、収益を認識する。資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時又は獲得するにつれてである。